4月12日発行の週刊GM研vol.89のコラムで、2003年のペナンとレースの順位予測をしたわけですが、アレから1ヶ月経って、ある程度の修正が必要になってきました。まさか巨人にここまで怪我人が出るとは予想できなかったし、河原が抑え失格の烙印を押されるとは思ってもみなかったし、ダイエーの若手投手陣があそこまで相乗効果を引き出せるとも予想できなかった。横浜はホームラン数がリーグトップなのに勝率が3割を切っていたり、オリックスの石毛監督が電撃解任されるとか…いやはや、この世の中何が起こるかわかりませんなぁ…
イマイチ盛り上がりに欠けて勢いに乗り切れないでいる他球団を他所に、日本野球界の話題を独占しているのが、阪神タイガース。5月9日の横浜戦では、浜中・片岡・アリアスが、優勝した伝説の1985年以来18年ぶりとなる「ホームラン3連発」をやってのけて大爆勝。今季初の3連敗を阻止する事に成功した。
毎年「春の珍事」と割り切って「今騒がないでいつ騒ぐねん!」と、ここぞとばかり大騒ぎするのが17年間続いてきた阪神ファンの日常だったわけだが、今年はいつもとは盛り上がり方の性質が違うようだ。1試合1試合刹那的に喜びを爆発させるのではなく、「明日も勝つ」ことを信じて疑わない「強いチームを応援している余裕」さえ感じられる。
4月11日の巨人戦で、9回2死最後の1球から6点差を追いつかれて引き分けに持ち込まれた「屈辱の4・11」の翌日、悪い流れを引きずらずに、悔しさをぶつけるように打ちまくった試合といい、因縁の相手である中日に嫌な形で2連敗した直後でも、普段どおりの戦い方ができるようになったこと、この精神的な強さこそが、今年の阪神の最大の強さなのかもしれない。
今年の阪神の試合は、テレビ中継を見ていても本当に楽しい。1番今岡はまだ本調子ではないが下位打線が作ったチャンスを確実にモノにしてくれる。2番赤星は人が変わったような打撃開眼で出塁率が大幅に向上し、積極的に盗塁を狙うことで3番金本に有利なカウントを作り出している。3番金本はホームランのこだわりを捨てたことで好不調の波がなくなり、持ち前の早い打球で外野を抜いて1ヒットで1塁から赤星をホームインさせる得点パターンはチームの大きな武器になっている。4番浜中は未だに成長過程で苦しんでいるが、前後を金本と檜山(もしくは片岡)というベテランに守られているため「阪神の4番」というプレッシャーからは救われている。5番檜山はファーストへのコンバートで守備の不安からバッティングに集中できない試合がしばらく続いていたが、得点圏での貢献度はさすがのひとこと。6番アリアスは好不調の波が激しいものの、片岡・檜山とポジションチェンジしながら起用できるため、「内なる争い」というポジション争いに焦る必要もなく、マイペースで臨んでいるのがいい結果を生んでいるようだ。7番矢野は不動の正捕手としても打撃面でもチームの要。野口の加入で後顧の憂い無く積極的なプレーができるようになったのも大きな変化だと思う。8番藤本の打撃開眼によって、藤本が出塁→投手が犠打→1番今岡がタイムリー、という切れ目のない得点パターンが確立されたし、2死からの藤本が出塁すればその回の最後のバッターが投手になり、次の回は1番からの好打順で始めることができる。これはあまり目立たない要素かもしれないがチームへの貢献度は高い。
好調をキープしている打撃陣に比べて、投手陣はイマイチ乗り切れていなかったが、5月を過ぎてようやく起用法も固まって調子は上向いてきている。エース井川は速球のキレがないため伝家の宝刀チェンジアップが効果を発揮できず、相手チームとのエース対決に惜敗する場面が続いていたが、調子が悪いながらも試合を作れるようになったので、復活も時間の問題だろう。ヒゲ魔人ことムーアは投げるのも打つのも絶好調。伊良部も意外とクレバーなピッチングを展開して格の違いを見せつけている。藪は完璧なピッチングに酔って打たれる悪い癖が抜け切っていないし、下柳は体力と球威に不安がある。藤田太陽が先発の5番手として入る事もあるが、この辺の取りこぼしが減らすことが優勝の絶対条件と言える。中継ぎの金沢・吉野は期待通りの働きをしているが、藤川球児は中継ぎとしての適正に疑問がある。抑えはウイリアムズに一本化されたようだが、球種が少ない剛球タイプなので研究され慣れられてしまうると厳しい場面も出てくるだろう。
総括すると、単純な補強による戦力の充実だけでなく、すべての選手がレベルアップしたことによって、小さなミスをしてもそれが致命傷になることはなく、いくらでも仲間が取り返してくれる。かつて横浜ベイスターズが38年ぶりの奇跡を起こして優勝した時に酷似したチームの和が再現されていると言えるのではないだろうか?
星野監督は独走状態にも気を緩めることなく「18年前のことなんて忘れろ!ワシらは今を戦っとるんや!」と檄を飛ばしていますが、まさにその通り!長く暗いダメ虎の時代は終わったのだ。これまで味わった辛酸を忘れることなく、臥薪嘗胆し、過去の栄光に縋ることなく、「今俺達が伝説を作ってるんだ!」そのくらいの意気込みで戦い抜いて欲しい。「そのうちいつものポジションに戻る」とか「今は勢いだけ」とか言いたい奴には何とでも言わせておけばいい。これは奇跡ではない。起きるべくして起きている必然なのです!
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