「よつばと!」とは? 原因不明の大ヒット作(電撃大王編集部談)となった、お気楽女の子4コマエンタテイメント「あずまんが大王」によって、オタク層を中心とする連載誌の枠に止まらない、大人気漫画家の地位を確立した「あずまきよひこ」が、1年余りの休養期間を経て送り出した、「まったり日常観察マンガ」、それが「よつばと!」です。 夏休みの始まりを目前に控えた頃、一組の親子が田舎から町に引越してきました。ちょっとぼーっとした若い父親(とーちゃん)と、ちょっと変わった不思議な幼児:よつばちゃん。お隣の綾瀬さん家の気のいい三姉妹(あさぎ・風香・恵那)と、とーちゃんの親友:ジャンボさんを巻き込んで、純粋で活発で好奇心旺盛なよつばちゃんの目を通じて、まったりとした日々の何気ない日常風景を、ハイテンションかつシュールかつ楽しく描くという、なんとも説明し難い不思議な読感を持つ作品です。 まったり日常観察マンガ よつばちゃんのように、ここまで子供らしい子供というものは、最近の都会ではなかなかお目にかかれないかもしれませんね。私は田舎育ちの子供で、文字通り野山を駆け回る無鉄砲な自然児だったので、よつばちゃんの言動が他人事とは思えなくて、この作品を読むと、いとも容易く童心に帰ってしまえるわけですが、どうやらこの作品は、都会育ちで実際にそういう経験がなかった人にもシンクロ率が高くて、ついつい「あるある」と頷いてしまうみたいですね。それもそのはずです。この作品で描かれる世界があまりにも生き生きとしていて存在感があるから、楽しい空気まで伝わってくるようなリアリティがあるから、この愉快な仲間達が、本当にこの町のどこかに住んでいるような気さえしてしまうのです。 よつばちゃんは「実は拾われた子供だった」という伏線もあったりしますが、いつもハイテンションでエネルギッシュなよつばちゃんのパワーに引っ張られて、さらりと軽く流してしまうので、物語がシリアスな方向に行く気配は微塵もありません。とーちゃんの「あつはなんでも楽しめる。だから、よつばは無敵だ」という言葉に、この作品の主題は集約されているのかも知れませんね。 ここにいるだけのしあわせ どうしても「あずまんが大王」と比較してしまって、「よつばと!」の路線を敬遠しているファンの方も多いかもしれませんが、そもそも、マンガの手法も狙いもまったく別路線なので、比較すること自体に意味がありません。もっとも、比較することには意味はありませんが、笑いの本質的な部分では、両者が表現しようとしているものは、それほど変わっていないと思いますよ。日常の面白さをマンガの尺度で切り抜く鋭い観察眼に裏打ちされた、コマ運びのテンポとシンクロした間の取り方が生み出す、一種シュールとも思える独特の笑いの芸風は、4コマの縛りがなくなったことで、第1巻のP27のブランコ大ジャンプでの時間の使い方や、P46の綾瀬さん三姉妹の自己紹介での身長の使い方や、P166の高台の神社の風景の使い方などにも見られるように、「あずまんが」(あずまきよひこの漫画という意味)は、より漫画的に進化したとも言えます。 また、日常というものは、いつでもオチがあるというわけではありません。何気ない普通の日常会話で笑いを取る方が、もっと難しいのかも知れません。笑いを取ろうとするギャグではなくて、自然にギャグになってしまうのが、この作品の醍醐味だと思います。 レビュアーの私が言うのもナニですが、小難しいことを考えずに、ただ素直に感じて童心に返って笑う、ただ子供を見守る親のように温かく見守る、ただそれだけで幸せな気持ちになれる、そんな楽しみ方が出来る作品だと思います。「癒し系」という言葉は胡散臭いので敢えて使いませんが、誰もが理屈抜きでまったりと落ち着ける、そんな素敵な作品だと思います。 First written : 2004/06/08
Last update : 2004/08/20
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