国内出荷は1200万台を越え、全世界出荷台数は5000万台…完全に世界の家庭用ゲーム機市場を独占し、PS2の性能を活かしたソフトラインナップも充実して円熟期を迎えたPS2。ライバルメーカーの任天堂やマイクロソフトは、すでに次世代機の開発と存在を否定しようとはせず、次世代機の早期投入で局面の打開を図ろうと躍起になっているが、それに対して王者SCEが示したのは、携帯ゲーム機「PSP」と、DVD+HDDレコーダ付PS2「PSX」という意外な新戦略だった。
まず、PSXについてですが、こういう商品が今までなかったことの方が、素人目には不思議な気もするかもしれないが、ゲーム業界にはこれまでにも「レーザーアクティブ」とか「メガPC」とか「PCFX」とか…ゲーム機能を「おまけ」として無残に散っていった前例があり、禁じ手でありタブーだったのです。それに、基本的にテレビゲームは他の娯楽産業とは、遊び手の時間を奪い合うライバル関係にあるわけであり、PS2が「DVDも観れるよ」という仕様を取った時には業界には否定的な意見の方が多かったのも事実です。
PSXが登場した背景には、ソニーと東芝とIBMが共同開発している、PS3のコアプロセッサMPU「CELL」の量産実用化のスケジュールが大幅に遅れているため、PS2の延命が必要になったという裏事情があるわけだが、それだけでなく、パソコン需要が頭打ちになってしまって、VAIOブランドが伸び悩んでいることと、DVDレコーダの分野では松下に大きくリードされてしまっていることと、PSの生みの親である久多良木健氏がソニーグループの次期CEOレースの主導権を握るため…などなど、いくつもの要因があるわけです。
PSXの市場投入は2003年の年末商戦の予定だが、既存技術を組み合わせるだけなのでスケジュールが大きくずれ込むことは考えにくい。ネックになりそうなのは価格の面だろう。すでにPS2が一家に一台普及してしまっている状況では、「おまけ」がハンデになって割高感が出てしまうのは避けられないだろう。少なくとも10万円を切るくらいのインパクトを出さないと、マニアでも手が出ない。
それに、今回の相手は「たまにしか観ない」DVDとは訳が違う。日常的に観る「テレビ」を相手にして、娯楽時間の奪い合いをしなくてはならないのだ。しかも、テレビはただ垂れ流しにしておけばいい。そこに映像記録編集の楽しみが加わると、「何かをする」というエネルギーが全部そっちに流れてしまい、ゲームを「ちょっとやってみようかな」という気力なんて残らない。それこそ、ゲームが副次的なものになってしまい、年に数本の有名大作ゲーム、もしくは、短時間で軽く遊べるもの、この二種類にゲームの在り方が限定されてしまう危険性をも含んでいる事を認識しておいて欲しい。
もし、PS3がPSX戦略の延長線上にあるものだと仮定するならば…それは王者の驕りと言うしかありません。ハードメーカーは新しい遊びの可能性を提案するものであって、ゲームの在り方を限定したり特定の方向に誘導しようとするのは、何か間違っている気がするのですが…
間違っているついでに、PSPについてですが…これはまだ発表段階なので判断材料が乏しいのですが、どうも嫌なプンプンします。UMD(ユニバーサル・メディア・ディスク)の話題が先行していて、「21世紀のウォークマン」などと次世代音楽メディアの次期標準規格の座を虎視眈々と狙っているようですが、標準規格になりきれなかったMDといい、メモリースティックといい、分裂してしまったDVD規格といい…ソニーの独自規格はいつも混乱をもたらすからなぁ…
SCEEの社長が、PSPのソフト価格を「2800〜4200円」「一部のソフトは8300〜9700円」とコメントしたのも大いに疑問。幅がありすぎて何の予想の材料にもなりません。GBAとの違いといえば、カートリッジROMではないのでプレス料金は大幅に下げられるだろうけど、なまじ大容量で高スペックなため大作志向で開発費がかさむことに…そういう意味では現行の携帯ゲームとは路線が違うので、携帯ゲーム市場を独占しているGBAとの共存は可能かもしれない。
だが、それはソフトメーカ側にとってはキツイ選択を迫られる事になる。家庭用と携帯用をどう作り分けていくのか、ここにさらにネットゲームという選択肢まで…選択肢の多さ、性能高さ、可能性の幅が必ずしも+の方向に働くとは限らない。エンタテイメントは産業である前に、娯楽であり作品である、その基本を努々(ゆめゆめ)忘れてはならない。
|