開戦から10日が経過した「イラク攻撃」は、いつの間にか「イラク戦争」と呼ばれるようになってきました。これはイラクをアメリカと対等の戦争相手と認定したことに他なりません。開戦当初こそ無人の野を行くが如くバクダッドを目指した地上軍は激しい砂嵐に行く手を阻まれ、性道誘導兵器の相次ぐ誤爆が世界の反感を買い、解放者としてアメリカを受け入れると踏んでいたイラク国民から根強い抵抗を受け… もはや戦争の長期化が避けられない事を認めながら、あくまで強気の姿勢を崩さないブッシュ大統領に対して、開戦当初は80%がイラク攻撃を支持していたアメリカ国民の間からも疑問の声が上がり始めている。
まず最初に断っておきますが、私は反米論者でもなければ反戦論者でもありません。国連を舞台にした外交戦についても、冷静に状況を分析すればアメリカがイラク攻撃を取り下げるはずがない、アメリカを止められないことは最期まで拒否権行使を武器に反抗したフランスが一番良く分かっていただろう。そして、アメリカ自体も本気で国連を説得できるとは思っていなかっただろう。ただ、どんなに形骸化した大義であってもあるに越したことはない。兵には、国家とか英雄とか弱者とか、己の命をかけるに足る幻想が要るのです。それがなければ、死ねませんから…
しかし、その保険的な外交戦に時間を費やしてしまったことが、イラクに十分な戦争の準備猶予を与え、砂嵐の激しい時期まで攻撃開始がずれ込んでしまった。しかも、トルコ政府が約3兆円の経済援助を蹴ってまでしてアメリカの地上軍の領内通過を認めなかったため、南北からバクダッドを挟撃するという中央司令部の戦略構想は一気に破綻してしまった。そして、アメリカは最後通牒の期限切れの数時間後、イラク首脳を標的にした限定空爆を行い、翌日には空爆もそこそこに地上軍を投入し、南部戦線を驀進したのだったが…それらは戦術研究の観点から言わせてもらえば、今回の「イラクの自由作戦」は、非常に場当たり的で短絡的で幼稚な作戦だと言わざるを得ません。
米英合わせて30万人の大兵力といっても、的確に戦力を投入できなければ意味が無い。トルコ領内を通過してイラク北部からバクダッドを挟撃するはずだった世界最強の第四機械化歩兵師団がペルシャ湾へ移動を完了するのを待たずに、南部戦線を開始してしまい、戦力を拡散させて無人の野を行くがごとく砂漠を驀進して補給路が伸びきってしまった。戦力の逐次投入と、火力の分散と、補給を無視した進軍…士官学校でこんなバカな作戦を立てたら一発で落第ものですよ。
圧倒的な軍事的優位を持ちながら、なぜ好き好んで急進してイラクの焦土戦術にかかり、いたずらに犠牲を増やすのか?なぜ湾岸戦争時のように徹底的にイラク軍の通信設備を完全に破壊しないのか?どうにも理解に苦しみます。ブッシュ大統領は戦後処理と復興プラン(第二の日本化計画)の青写真にばかりご執心。こんな大変な時期でもちゃっかりとキャンプデービットの山荘で週末を過ごすというお気楽三昧…こんな最高司令官(大統領)の気まぐれ攻撃命令に命を預けなくてはならないのだから、最前線の兵士はたまったものではない。
世界中の反対を押し切ってまでして戦争を始めてしまったアメリカにとって、国際世論をつなぎとめる唯一の手段は「電撃作戦による早期終戦と圧倒的勝利」だった。ゆえに、誰がどう考えても利口ではない力押しの戦術を展開さぜるを得なかったのだが…戦略レベルでは、そういう状況を作ってしまった、という時点で敗北しているんですよ。圧倒的な軍事的優位があるから、戦術レベルでいくら甚大な損害が発生しても、全体の勝ち負けがひっくりかえる事はありませんが…お粗末な外交の失敗の尻拭いのために、死地に追いやられている最前線の兵士やその家族にとって見れば、こんな馬鹿げた話はありません。
その上、「アメリカは石油のために戦争をしているわけではない」とか、イラクの戦後処理を国連信託統治にすることを検討したり…ブッシュ大統領は反米感情の緩和に躍起になっているが、それはアメリカ国民に対する背信行為と言えるのではないだろうか?犠牲が増える事を承知の上で急進して自軍を消耗戦に送り込み、巨額の戦費の負担を自国民に強いた上で、これまで散々唱えてきた「国益」を放棄するというのか?
前線に展開するアメリカ軍が共和国防衛隊を長期戦の末に退けたとしても、フセインを不用意に追い込めば、やけっぱちになって生物化学兵器を使用してくる危険性が高まってしまう。生物化学兵器が使用されるとあれば、さすがにフランスもイラクを擁護することはできなくなり、イラクの敗北は決定的になる。しかし、それは同時に、アメリカの圧倒的軍事力を背景にした独断行動の失敗をも意味してしまうのです。この戦争は「勝者なき戦争」になりかねない、大変危険な状況へと近づきつつあるのです。
そして、私たち日本人も日米同盟を遵守して日本政府がアメリカを支持している、という事実にもっと真剣に向き合う必要がある。マスコミ各社がそれぞれの思惑を持って、偏った事実しか伝えないイラク情勢の報道を鵜呑みにする事は大変危険なことです。反戦念仏を唱えたりアメリカ領事館の前で座り込みをしたりする前に、今自分たちが置かれている現実を直視するべきだろう!現実問題として、今の日本は北朝鮮という目の前の脅威に対抗するためにはアメリカに従う他に道は無い。戦後、アメリカに属国扱いされても屈辱にまみれながら奇跡の復興を成し遂げた祖父母たちの歴史を否定することは、現在の日本の繁栄を否定することに他ならないのだから!
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