GM研所長、27歳。今年の夏に同人読者歴5年目を迎える、どこにでもいるスパークする同人誌バカである。蔵書は同人誌だけで3500冊を突破。同人年間予算は公称70万円にまで拡大。2004年4月には生活の拠点を関東に移したのをいいことに、毎週のように各地の同人誌即売会に出没。このまま加速度的な増加曲線を辿れば、同人界の妖精と謳われた:故イワえもんの蔵書(3万冊)を超える可能性もあるという…夢中で走っていたら、いつの間にかどえらい所まで来てしまいましたが、そんな私にも「始まり」の瞬間がありました。5年目という節目を迎えるにあたって、今日はこれまでの歩みを振り返ってみたいと思います。
私が同人誌と初めて出会ったのは、2000年、23歳の夏のことでした。大学を卒業するまでずっと、陸の孤島のような片田舎(鳥取県)で生活していた私は、同人誌のドの字も知りませんでした。ゲームとマンガについては、田舎でも格差は少ないので、それほど不自由することなく楽しむことができましたが、同人誌はそういうわけには行きません。即売会に参加するにしても、学生の懐には手痛い遠征交通費が発生するし、そもそも周囲に同人誌を嗜む友人もいなかったので、当然ながら、同人誌との接点は全くありませんでした。おそらく、教授推薦のままに地元の企業に就職していたら、私は一生同人誌と出会うことなく生涯を終えていたことでしょうし、GM研の現在もありえなかったでしょう。
ところが、運命という奴は面白いものです。大学卒業後、私は就職して研修のために上京することになりました。研修場所の最寄り駅がちょうど秋葉原だったこともあり、毎晩のように電気街を散策する機会があったので、せっかくだからと同人誌ショップにも入ってみる事にしました。初めて足を踏み入れた同人誌ショップは…私にはあまりにもどキツイ異世界でした。目に入るのは元ネタも分からないエロばかりで、数ページの見本誌のコピーだけで何をどう判断しろというのか…元々、家庭用ゲームばかりをやってきてPCエロゲーを全く知らず、まともに流行のアニメを受信できない田舎に住んでいたこともあり、同人誌の流行についていくことなんて出来ませんでした。「やはり私には肌が合わない世界だな」と諦めて退散しようとしていたら、ふと一冊の本の表紙にピタリと足を止めました。その1冊が「その後のEVANGELION(7)」でした。見本誌のほんの数ページのコピーと先ほど言いましたが、本当にフィーリングが合う本というものは、1コマの絵柄だけでも十分にその良さを判断できます。次の瞬間には迷うことなく本を手にレジに向かっていました。
同人誌のその面白さを一度知ってしまってからは、のめり込んでいくのは早かったですね。その夏のコミックマーケットに初めて一般参加して、会場の壮絶な人込みと熱気とパワーに、強烈なカルチャーショックを受けました。その後、研修を終えて関西に配属されて、同人のメインステージから引き離されてしまっても、一度点いてしまった火はもう消せませんでした。むしろ、逆境であればあるほど燃え(萌え)上がるのが愛というもの!
しかし、地方同人をやっていると、どうしてもネックになってしまうのが遠征に必要となる交通費です。関西にも同人誌即売会はあるにはありますが、関西まで遠征して来てくれるサークルは限られているし、オンリーイベントも数えるほどしかありませんからね…激安の夜行バス(片道4800円)を使えば多少は節約できるけど、眠れなくて身体は疲労でボロボロになってしまうし、堅気の仕事もあるので翌日に疲れを残すわけにもいかないし…
そこで、私の同人熱の維持拡大に大きく貢献してくれたのが、同人誌ショップの存在でした。毎週のように日本橋の同人誌ショップに足を運んで見本誌を読み倒しながら、自分の感性に合うサークルを徐々に増やしてゆき、好きになったサークルの本を「サークル買い」しながら、ジャンルの守備範囲も同時に広げて行くことで、作品を通して、作者と自分の嗜好にリンクする部分を見出して、その感性を信頼して原作を好きになる…という、私なりの本選びのスタイルを確立することができました。
2001年夏のコミケには、初めてサークルとしても参加しました。最近になってGM研の存在を知った方はご存じないかもしれませんが、GM研は2001年夏から2002年冬まで、須賀原洋行作品パロディ同人サークルとして活動していたんですよ。中学生の時からずっとファンだった須賀原先生には、モーニング誌上で作者近況欄で告知をしていただいたり、名古屋での即売会に参加した際にはお話させていただく機会までいただきました。同人作家としてこれ以上無いほどの喜びを教えてくれた約2年間の活動は、ずっと忘れることはないでしょう。
また、同人活動を通じて、多くの友人を得ることもできました。学生時代ならともかく、社会人になるとなかなか対等の立場の友人というものは作れなくなってしまいます。特に、同人という極めて特殊な趣味では公言することも憚られるもので、職場では隠している人も多いと思います。しかし、同人という名の元に、同じ趣味をした同じ目をした人々が集う同人の世界では、ちょっとの勇気さえあれば、その友人関係は長続きします。親兄弟だって、盆と正月くらいしか顔を合わせないのに、同人では年に数回であっても確実にその場に行けば会えるんですから!そして、その場所では世間での肩書きもしがらみも関係なく、同志として通じ合うことができる。何年経っても変わらない、その人の本質で語り合うことができるのです。
私は、4年間で累計250万円にも上る巨額の投資を続けながら、同人という世界を見続けてきたわけですが、大きなところでは、月姫の大ヒットや、マリみて現象、同人関連産業の隆盛、商業と同人ボーダーレス化、などなど…様々な移り変わりを目の当りにしてきました。もっと身近なところでは、長年活動してきたジャンルに終止符を打つサークルさんや、長く続けてきたシリーズを終えて新しい挑戦を始めるサークルさんや、プロデビューしてどんどん有名になっていく作家さんや、商業に専念するために同人活動を休止する作家さん…世界も人も、何もかも変わらずにはいられません。ただひとつ変わらないものがあるとすれば、それは、”本に込められた作家の情熱”と、”情熱を受け止める読者の心”ではないでしょうか?今一番自分がやりたいことをやるということ。同人というのは、とてもシンプルな自己表現であり、コミュニケーション手段でもあるのです。
レビューを書いている私が言うのもナニですが、同人誌においては、作品の良し悪しというものは非常にパーソナルなものであって、普遍的な評価や価値観で語ることのできないものだと思います。しかし、同人の世界はあまりにも広大で自由です。初心者はどこをどう探せばいいか分からないし、熟練者になると自分の守備範囲以外には目もくれなくなってしまいます。だからこそ、ある程度のガイド、道先案内人のような存在が必要なのだと思います。そう心がけてレビューを書くようにしています。レビュー活動や同人読者の道を極めることを通じて、とても多くのモノをくれた同人という文化に対して、少しでも貢献していくことができれば幸いです。
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