5月2日、東京ビッグサイトの会議棟で開催された、「岩田次夫さん(イワえもん)を偲ぶ会」に、私も参加してきました。
コミケカタログのDr.モロー先生のマンガで描かれる「イワえもん」というキャラクターでも有名な岩田次夫さんは、同人業界では知らない人はいない、同人界の妖精と形容されるほどの有名人です。規模が拡大する一方で事務処理が限界に達していたコミケット準備会にフラリと現れ、いち早くパソコンによるシステム化を構築し、大規模開催を可能にした岩田さんの功績がなければ、今日のコミケはなかったことでしょうし、同人誌という文化が陽の目を見ることはなかったでしょう。最前線のスタッフを退役した後も同人誌への情熱は衰えることを知らず、即売会の度にトラック2杯分もの本を買いまくるだけではなく、買い集めた本を提供する「岩田読書会」を自ら主催。通算すると都内に一戸建てが買えるほどのお金を投じてきた、など数々の「生ける伝説」の体現者として、作家からも一般参加者からも主催者からも尊敬されてきました。
しかし、昨年の10月に肺癌の告知を受けてから闘病生活が続き、今年1月に入ってからは重度の肺炎を併発して昏睡状態が1ヶ月以上続き、意識が回復してからも体を動かすことも声を発することもできない状態が続きました。そして、3月22日18時22分、重症肺炎による感染症性ショックで、岩田さんは亡くなられました。享年50歳でした…
偲ぶ会で展示された写真の中に、岩田さんのご自宅の本棚の様子を写したものがありました。3万冊以上の同人誌…そのすごさは、同じ同人バカ一代の道を往く私には、痛いほどよく分かります。年間1000冊ペースの私でさえ、このペースを50歳まで続けたとしても2万5千冊が精一杯です。3万冊という数字もおおよその数でしょうから、実数はもっと多いことでしょう。おそらく、岩田さんの同人誌年間出費は200万円を超えていたのではないでしょうか…
偲ぶ会の最後には、岩田さんの戦友ともいえるコミケット準備会の米澤代表の挨拶がありました。「私は今まで彼の遊び場を作ってきたようなものですから(笑)。天国に派遣された彼は、一足先に天国で即売会の準備をしてるに違いない(笑)。まだ彼がいなくなってしまったという実感は湧いてきませんが…初盆と重なる今度のコミケには天国から返って来るでしょう。だから、私たちはしっかりと彼の愛した場所を守って行きたいと思います。」
そして、岩田さんのお姉さんとお母さんからもご挨拶がありました。「皆様連休でいろいろご予定もある中にも関わらず、今日この場にこれほど多くの方が集まって、息子のことを偲んで下さって…息子は幸せ者です。皆さんの中には私たち家族も知らない息子の思い出が生きています。どうか忘れないでいてあげてください。そして、どうか健康には十分気をつけてご自愛下さい…」思わず目頭が熱くなりました。そこには、息子を亡くした母としての気持ちと、息子がやってきたことを誇りに思う気持ちとが滲み出ていたから…
正確な人数は私には分かりませんが、優に1000人を超える弔問者が集まり、献花と拝礼とともに仲間達で時間いっぱいまで思い出話を語り合いながら故人を偲びました。改めて故人がいかに多くの人々に愛され、いかに大きな足跡を人々の心の中に刻んできたかを再認識いたしました。岩田さんの功績は、公式な文化史の記録としては歴史には残ることはないでしょう。しかし、私たちは知っている。そして、忘れない。人生のすべてを賭して「ファンであること」を貫いた一人の人間の情熱が、同人という文化を最戦線で育て守ってきたということを…謹んでご冥福をお祈りいたします。
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