Weekly Web Magazine
週刊GM研 Vol.103
2004/05/02


【News Headline】
  • 第二東名・名神高速道路の呆れた実態
  • 【mini Review】
  • DVD
  • : True Love Story Summer Days, and yet...(3)
  • CD
  • : 堀江由衣 「楽園」
  • 漫画
  • : よつばと!(2)
  • 雑誌
  • : 週刊ファミ通 5月14・21日号(vol.805)
    【Weekly Column】
  • 追悼:岩田次夫さん(イワえもん)

  • ■News Headline

     【第二東名・名神高速道路の呆れた実態】 
     夕方のニュースを聞きながらGM研の原稿を書いていると、非常に興味深い特集を耳にしました。それは、10兆円もの巨額の予算を注ぎ込んで現在も建設が続けられている、「第二東名・名神高速道路の呆れた実態」というものでした。

     バブル経済絶頂の竹下内閣時代にGOサインが出されたこの計画は、時速140kmの高速走行を実現して、東京から神戸間をわずか4時間半で結ぶという、「日本のアウトバーン」とも呼ばれる壮大な国家プロジェクトでした。時速140kmの高速走行を実現するためには、高低差とカーブを極限まで減らす必要があります。そのため、山という山はトンネルで直線に掘り進み、平地でも地上50mの高架橋ですべて構成。しかも全6車線規格であるため、その分高架もトンネルも建設費がかさみます。高架を支える橋脚は1本1億円。川に橋を1本架けるだけで数百億円がかかります。用地買収には相場の10倍以上の費用を計上して省官自治体ぐるみで金をばら撒き…日本の道路行政史上最大の狂宴は数10年に渡って続けられてきたのです。

     しかし、小泉内閣の道路公団改革によって、建設中の高速道路の計画の見直しが行われるに至り、第二東名・名神の呆れた実態が次々と明らかになったのです。最大の売り文句だったはずの時速140km走行について、警視庁が「安全上、そのような高速走行は認められない」という見解を出しました。第二東名・名神計画が省庁間の根回しも了解も得ないままに、道路公団の独走によって進めてしまったため起きてしまったのです。第二東名・名神計画の首班人物は、数年前の解任騒動もまだ記憶に新しい、あの道路族の妖怪:藤井総裁でした…彼ら数人の官僚だけの決定によって、10兆円もの国家プロジェクトが走り出してしまったこと、誰も止めようとしなかったこと…日本政界の闇の深さを象徴する出来事だと言えます。

     国土交通省はマスコミに計画変更の責任説明を求められると、当時の事情を何も知らない若い課長代理を生贄に差し出して「時速140km構想なんて記憶にありません」などと、しどろもどろの言い訳で目を泳がせる始末。かつては、国土交通大臣が自ら公式の場で連呼し、公式なパンフレットにも明記されていた謳い文句だったのに、手の平を返したようにウヤムヤにして、構想が存在したこと自体を闇に葬ろうとしているのです。どこまでも呆れた所業ですなぁ…

     巨額の血税を投入してすでに300km以上が完成しているにも関わらず、計画の見直しを求められると、「普通の高速道路として4車線に減らして完成させる」とあっさりと計画を見直してしまいました。これにより、すでに計画変更が不可能な橋やトンネルだけが6車線という、世にも奇妙な高速道路が出来上がってしまうことになってしまうのです。一国の国家予算にも匹敵する巨額の予算が、道路族の官僚の見栄と独断によって水泡に帰したことは何ひとつ処罰されないまま、沿線自治体の企業誘致と、ゼネコン業界の利益を守るためだけに、今日も札束を敷き詰めた道路の建設は止められるなく続いているのです…


    ■mini Review

     【True Love Story Summer Days, and yet...(3)】 KSS/エンターブレイン 
     ぐふぁぁぁ!(吐血)…悪い事は言わないので、良い子のTLSファンはこのOVAだけは見ちゃいけないよ。私は、この時ほど自分のレビュアー根性を呪ったことはありません。私は、OVA1巻と2巻のミニレビューを書いてしまった使命感と、「毒喰わば皿まで」の精神で買ってしまいましたが…同じ毒でも致死量とそうでないものとの差はある、ということを身をもって学習させられました。高い授業料でしたけどね…

     ツッコミどころは多すぎて何から書けばいいか分かりませんが、その前にちょっとだけあった好意的な部分を書いておきましょう。まず、作画については目に見えて上手くなっています。もっとも、それは始めが見るに耐えないものだった、という意味でもあり、上手くなった頃にはシリーズは終わってるんですけどね…ストーリー的には、強引ながらも上手くまとめたようにも見えますが、この内容の無い話を3巻も続けないと演出できないこと自体に大きな問題があります。他のキャラを中途半端な絡みでしか魅力を引き出せないなら、端から登場させなくてもええやん!…と、早くも褒めるべきポイントから外れてしまいましたね。唯一の見所は、花火大会の背景画にこっそりと配置されていた隠しキャラ子さんと、アニメオリジナルの緋菜ちゃんの親友:古内曜子と、美味しい役回りを演じてくれた誠太郎くらいのものです(笑)

     さらに細かくツッコんでみると、神谷さんの昼食が駄目になった下りがまったく説明不足だし、最終巻になって神谷さんが名乗りを挙げるのもどうかと思うし、桐里さんのバナナの皮を剥くスピードが異常に早いし、2巻であれほど引っ張っていた弥子はあっさりと緋菜に惹かれていく主人公を認めちゃうし、篠坂さんは変な人のまま終わっちゃったし、るり姉はちっともお姉さまじゃないし…短い出演時間ならそれなりの演出し方があるはずなのに、「とりあえず脇役もオールキャラで出しとくか」という安直な考え方なんでしょうか?それとも、真剣にやってこの程度しかできなかっただけですか? どうせなら、各キャラごとに分けた60分1本勝負で割り切った構成にすれば、少なくとも薄い内容で3本とも共倒れという最悪の事態だけは避けられたのではなかろうか…いや、もう済んだ事に何を言っても詮無きことよ。一刻も早く忘れられるよう努力いたしましょう。

     映像特典のプー(小倉優子)のコーナーは、アンチプー属性の方々にとっては精神衛生上大変よろしくないので、手の届かない場所にお札付で封印してしまいましょう。メディアミックスで儲けたファンの血税で、しょーもない次回作を作りやがりましたら承知いたしませぬのことよ!

     【堀江由衣 「楽園」】 アーツビジョン / スターチャイルド 
     声優アイドル界のトップアイドルに君臨する、堀江由衣:通称「ほっちゃん」の4thアルバムは、過去のPVクリップを集めたDVDと同時発売、というファンにはたまらん豪華仕様です。DVDの方は時間が無くてまだ見ていないので、とりあえず今回はCDの方のみの評価を行ってみましょう。

     1. クローバ−
     2. A Girl in Love
     3. 虹色☆サーチ
     4. Baby, I love you!
     5. Tutty Fruity
     6. 恋ごころ
     7. 波のまばたき
     8. on my way
     9. try again
    10. 心晴れて 夜も明けて
    11. 笑顔の連鎖
    12. BE FREE
    13. Invitation

     全体としての平均点は高いのですが、飛び抜けた曲も少ない、といった感じのアルバムだと思います。作品世界として鑑賞する分にはイイかも知れないけど、通して聴いた後にコレといった印象が残らない後味の薄さには疑問が残ります。「心晴れて〜」はアニメ「十兵衛ちゃん」のタイアップ曲なのに、なぜこんなにパンチが無い曲なのか不思議でならないし、イメージ優先の曲順編成によって、盛り上がるべきタイミングで盛り上がれずに流してしまうこともあり、大変評価しづらい1枚だとも思います。ちなみに、評価の基準は、単純に楽曲として魅力があるかどうか(声の特性が生かされているかどうか)、もしくは、曲からほっちゃんの姿が想像できるかどうか、このいずれかで判定しています。評価5の曲は2つありますが、「恋ごころ」は前者、「笑顔の連鎖」は後者の基準から採点されたものです。

     こんな事を書くと、ほっちゃん信者に命を狙われてしまいかねないのですが、いずれにしても、ほっちゃんに「歌手としての上手さ」を求めてもしょうがない、ということなんですけどね(笑) ただ、ひとつ気になるのは、声優歌手として、國府田マリ子や椎名へきるのような「音楽に向かう強い意欲」が、歌手:堀江由衣としての曲からは伝わってこない、ということです。もうさすがにアイドルって歳でもないですし、路線変更がそろそろ必要な時期なのでは?

     【よつばと!(2)】 あずまきよひこ / 電撃大王 
     相変わらずマイペースなマンガでござる。よつばちゃんの元気な天然さに負けず劣らず、綾瀬さんちの3姉妹もキャラが立ってきました。主人公のよつばちゃんを1コマしか出さずに、1話まるまる綾瀬家ネタでやってしまったエピソードも新鮮で面白かったし、風香ちゃんの水着姿では、「ウエストにちょっと肉が余ってるところがマニアックでいい」と言っていますが、それを言葉どおり絵でも表現できてしまうのは、さりげないけどすごい観察能力と造形能力だと思いますよ。ごく当たり前の日常の風景を、マニアックな視点からのこだわりで、時間と空気の雰囲気さえも描くリアリティがあるからこそ、あずまきよひこ作品の絶妙の「間の取り方」が生まれるのだ…そう私は思っています。そのうち「よつばと!」もアニメ化されると思いますが、こればっかりはアニメには絶対に表現できない、マンガならではの感覚だと思いますよ。コマ割りの効果まではアニメでは再現できないからなぁ…

     あまりにも前作がヒットしすぎてしまったので、どうしても「あずまんが大王」と比較されてしまいまう「よつばと!」ですが、根本的に狙っているものが違うので比較評価のしようがないし、「あずまきよひこらしさ」という本質的な部分では全く同一の性質を持った作品だと思います。ちなみに、電撃大王6月号の付録についている「よつばアクションフィギュア」は非常に出来が良いので、買い逃さないよう早めにゲットしておきましょう。

     【週刊ファミ通 5月14・21日号(vol.805)】 エンターブレイン 
     先週号に引き続き、GDC(ゲーム・ディベロッパーズ・カンファレンス)のレポートが面白かった。桜井政博さんの講演では、シューティングゲームを例にして「ゲーム性」という言葉の本質が説明されています。ファミ通で桜井さんが連載しているコラムの中でも、GDCの講演で「名古屋撃ち」というキーワードが出ていましたが、それはこういう意味だったんですね。講演の語り口としても非常に上手いやり方だと思います。ゲームクリエイターにしとくのが惜しいくらいです(笑)それにしても…結局のところ、ゲーム性というものはオンベーダーの時代から何一つ変わっていないということでもあるんですよね…

     ファミ通エクスプレスでは、海外の注目ゲームメーカー特集が組まれていて、これも非常に興味深い内容でした。ゲームタイトルを聞いた事はあっても、メーカーのことまでは良く知らないという読者も多いだろうし、開発会社に至っては尚更のこと。地域的な特徴として挙げららるのは、アメリカではXboxが元気なことと、潤沢な経営体力を生かして多くのメーカーが全ハードにソフトを供給しているということ。ヨーロッパでは総合商社的な性質を持つメーカーが多く、アジアでは台湾・韓国主導のオンラインゲームが花盛り。いつまでも、全時代的なパッケージビジネスとハード戦争がどうのこうのに終始している日本ゲーム市場は、ゲームの国際ボーダーレス化の大波に飲み込まれてしまうやもよ?

     アイドルスタジオのコーナーに小向美奈子が!…ドリマガへのあてつけか?(深読みしすぎ)


    ■COLUMN

     【追悼:岩田次夫さん(イワえもん)】
     5月2日、東京ビッグサイトの会議棟で開催された、「岩田次夫さん(イワえもん)を偲ぶ会」に、私も参加してきました。

     コミケカタログのDr.モロー先生のマンガで描かれる「イワえもん」というキャラクターでも有名な岩田次夫さんは、同人業界では知らない人はいない、同人界の妖精と形容されるほどの有名人です。規模が拡大する一方で事務処理が限界に達していたコミケット準備会にフラリと現れ、いち早くパソコンによるシステム化を構築し、大規模開催を可能にした岩田さんの功績がなければ、今日のコミケはなかったことでしょうし、同人誌という文化が陽の目を見ることはなかったでしょう。最前線のスタッフを退役した後も同人誌への情熱は衰えることを知らず、即売会の度にトラック2杯分もの本を買いまくるだけではなく、買い集めた本を提供する「岩田読書会」を自ら主催。通算すると都内に一戸建てが買えるほどのお金を投じてきた、など数々の「生ける伝説」の体現者として、作家からも一般参加者からも主催者からも尊敬されてきました。

     しかし、昨年の10月に肺癌の告知を受けてから闘病生活が続き、今年1月に入ってからは重度の肺炎を併発して昏睡状態が1ヶ月以上続き、意識が回復してからも体を動かすことも声を発することもできない状態が続きました。そして、3月22日18時22分、重症肺炎による感染症性ショックで、岩田さんは亡くなられました。享年50歳でした…

     偲ぶ会で展示された写真の中に、岩田さんのご自宅の本棚の様子を写したものがありました。3万冊以上の同人誌…そのすごさは、同じ同人バカ一代の道を往く私には、痛いほどよく分かります。年間1000冊ペースの私でさえ、このペースを50歳まで続けたとしても2万5千冊が精一杯です。3万冊という数字もおおよその数でしょうから、実数はもっと多いことでしょう。おそらく、岩田さんの同人誌年間出費は200万円を超えていたのではないでしょうか…

     偲ぶ会の最後には、岩田さんの戦友ともいえるコミケット準備会の米澤代表の挨拶がありました。「私は今まで彼の遊び場を作ってきたようなものですから(笑)。天国に派遣された彼は、一足先に天国で即売会の準備をしてるに違いない(笑)。まだ彼がいなくなってしまったという実感は湧いてきませんが…初盆と重なる今度のコミケには天国から返って来るでしょう。だから、私たちはしっかりと彼の愛した場所を守って行きたいと思います。」

     そして、岩田さんのお姉さんとお母さんからもご挨拶がありました。「皆様連休でいろいろご予定もある中にも関わらず、今日この場にこれほど多くの方が集まって、息子のことを偲んで下さって…息子は幸せ者です。皆さんの中には私たち家族も知らない息子の思い出が生きています。どうか忘れないでいてあげてください。そして、どうか健康には十分気をつけてご自愛下さい…」思わず目頭が熱くなりました。そこには、息子を亡くした母としての気持ちと、息子がやってきたことを誇りに思う気持ちとが滲み出ていたから…

     正確な人数は私には分かりませんが、優に1000人を超える弔問者が集まり、献花と拝礼とともに仲間達で時間いっぱいまで思い出話を語り合いながら故人を偲びました。改めて故人がいかに多くの人々に愛され、いかに大きな足跡を人々の心の中に刻んできたかを再認識いたしました。岩田さんの功績は、公式な文化史の記録としては歴史には残ることはないでしょう。しかし、私たちは知っている。そして、忘れない。人生のすべてを賭して「ファンであること」を貫いた一人の人間の情熱が、同人という文化を最戦線で育て守ってきたということを…謹んでご冥福をお祈りいたします。


    文責:GM研編集部編集長 gonta