True Love Story Summer Days, and yet...
対応機種 : Playstation2
販売/開発 : エンターブレイン/GameCRAB
プレー時間 : 38時間

「TLS-S」とは?

 「TLS-S」とは、家庭用恋愛シミュレーションゲーム「トゥルーラブストーリー」シリーズの最新作「True Love Story Summer Days, and yet...」の略称です。下校会話などの独特のシステムと野暮ったいほどピュアなコンセプトで好評を博したこのシリーズも、折からのギャルゲー不況の煽りを受けて、シリーズを重ねるごとに実売本数を半減させ続け…PS2で再起を期した「3」も煮詰め切れなかったシステムが不評に終わり、開発会社はその存続さえようとして知れず、他社ギャルゲーの後乗りばかりに熱心な親会社からは何のフォローもなく、ついには原画師の松田さんが家業を継ぐため引退、わけのわからぬアイドルにトゥルーラブの名を冠した毒電波ラジオが始まり… 逆境に強いトゥルラーの間からさえもさすがに諦めムードが漂う中、ある日唐突に発表されたTLS-Sは、限りなく願望に近い期待と、今まで裏切られ続けてきた不安、という両極端の複雑な感慨を持って、迎えられたのでした。

 今回の舞台は高校2年生。ゲームの期間は夏休み前の数週間です。これまでのように「転校」や「卒業」など切羽詰った動機というものはなく、ただフツーの”ひと夏の恋”というやつです。初代からのファンの私としては、「そんなの恋愛の動機として弱すぎる!そんなのトゥルーじゃねぇ!」と大いに不安だったのですが、安易なシリーズのナンバリングをやめて、毎回新しいコンセプトを打ち出して行くべきだとは思っていたし、主人公の背景を限りなく薄めることでヒロイン主観の恋愛像を描けるようになるという効果があることも否定できません。キャラクターデザイナーが交代したとはいえ、TLSらしい絵柄は忠実に受け継がれているし、高原保法氏のシナリオも、岩垂徳行氏の音楽も健在だし、もちろん杉ポネの大将も健在です(これだけは皮肉)。さて、新TLSの真価やいかに?

新しいけど懐かしい、古くて新しいTLSの再起作

 何かと新要素満載で、見た目は「期待もいっぱい・不安はもっといっぱい」なTLS-Sでしたが、実際にプレイしてみた方は不思議と何の違和感もなくゲームに入っていくことができたと思います。新しいけど、どこか懐かしい。古くて新しい。TLS-Sを端的に表現すると、そんな作品だと思います。新しいキャラクターデザイナーの高山箕犀氏は、ビッツラボラトリー時代からTLSのグラフィックに関わっていた人だし、PALETTA Vol.8でのインタビューでも「悩んだのはデザインではなく絵柄」と語っていたように、静止画ではまったくの別物でも、実際にプレイすると「ああ、TLSだなぁ」と感じられるように、TLSらしさというものを受け継ぐために苦心されたようです。キャラの描き分けもできないのに萌え絵で誤魔化す芸術家気取りのデザイナーがのさばるこの業界にあって、彼の御仁のような愚直なまでの純粋さは、絵からも読み取る事ができるでしょう。

 ゲーム的である部分は思い切りよく割り切って現実にはこだわらず、すべての効果が集約されている、シンプルなシステム設計には好感が持てます。「今日の目標」はいわば攻略ガイドシステムようなものですが、テキトーにやっていても達成できてしまう目標も多いので、なーんにも意識しなくても自然とモテモテ状態に。しかし、目標達成時にしか評価が上がらない仕様なので、下校会話の比重が低くなってしまったのはチト残念ですが。「会話レベル」は、狙って上げる事は難しいけど、目当ての女の子に会えない場合の「外れ感」を緩和してくれるし、下校会話で高レベルの話題を振ると、特別会話が起こすこともできます。特に、LV5の「エッチな話」はあまりにもエロすぎて必見です!(あくまで健康的な男子高校生のエロさの範囲内ですけど)

終わらない夏、現実的仮想を楽しむための割り切り

 日付の概念を排除してどこまでも続いていく「終わらない夏」といい、「今日をやり直す」というコマンドといい、システムだけを眺めていると、えらく現実離れしているようにも聞こえますが、これが意外と違和感ないんですよ。そもそも、こんなピュアの恋愛なんてものは、現実の高校生活では今も昔も多分これからもありえません。ましてや願望と妄想が爆発するギャルゲーというジャンルにおいてはいわずもがな。もはや仮想現実の中のファンタジーとしてもありえない真実の恋(トゥルーラブ)ほど、非現実的なものはないのかもしれません。私はTLS3のレビューでも書きましたが、TLSの魅力とは、そっけないくらい薄味の演出だけど想像の余地を残し、セピア色に美化された遊び手の過去とリンクさせる事が出来る事にあると思います。その現実的仮想を理屈ぬきで楽しむためには、ある一線でゲームとして割り切る必要があります。その本質と原点に立ち返った今作のバランスの良さが、TLS-Sの「派手さはないけど、そこはかとなくイイ雰囲気」をカタチ作っているのでしょう。

 しかし、すべてが順調、めでたしめでたし、とは言えません。販売本数の面ではシリーズを重ねるたびに実売本数を半減させていく「TLS半減期の法則」というジンクスを今回も崩す事が出来なかったのですから。型通りのメディアミックスと低予算開発で元が取れたらハイお終いというのであれば、出口の見えない構造不況に陥ってしまったギャルゲーの現状は何一つ変わらない。内輪ウケのマイナーメジャーで満足するならば、家庭用でやる意味など何もない。愛ゆえに手も口も出す、そんな逞しい野党精神に満ちたファンに支えられたこのシリーズには、ギャルゲーの現状を打破する可能性がまだ残されています。TLS-Sが本当にTLSの再起作になれるかどうかは、過去の失敗を踏まえて「ここから何を始められるか」に掛かっているのではないでしょうか?

First written : 2003/08/22
Last update : 2003/10/14

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「TLS−S」 どこまでも終わらない夏のキャラクター選評

※この選評は重度のネタバレで構成されています。ゲームの楽しみを致命的に損なう恐れがありますので、ゲーム本編をすべてクリアした方、もしくは多少のネタバレも読み流せるという方のみ、白文字部分をマウスで選択反転させてお読みください。なお、この注意書きを無視してネタバレ部分を読んでしまった場合、GM研は一切責任は取りかねますので、くれぐれもご注意ください。

 楠瀬 緋奈  CV.桑谷夏子

 メインヒロインの「ね」の法則(綾音、茜、たかね)は途切れてしまったものの、幼なじみの「瀬」の法則(広瀬、七瀬、柳瀬)は健在です。髪型は流行の?ツインテールですが、典型的な丸顔なのであまり目立ちません。かなり序盤から「緋奈=隠れ幼なじみ」という設定はバレバレで、知らぬは主人公ばかりという展開にイライラさせられたけど…ほう、そう来ますか、というラストで納得。良くも悪くも、なんだか普通のギャルゲーライクな展開にTLSらしさがあまり感じられなかったりもしたけど。いきなり告白されるところから始まる「告白編」では、さすがに正ヒロインだけあって、楠瀬さんのキャラクターの根っこの部分が丁寧に描かれていて、別パターンのシナリオも遜色ない出来で、「これはこれで」という風に楽しめました。キャラクターを純粋に楽しむためには「やらされてる感」の強いシナリオなんて必要ない、これこそTLSの原点ですな。しかし…エピローグで「実は幼なじみでした。それはまた別のお話」という風に、軽〜く流してしまうのはどうかと思うぞ?ルート分岐の設定上、先に「幼なじみ編」をクリアしてしまう人が大多数なんだから、最後の最後にこんなにあっさり終わられるとガッカリ感が…(どういう順番でみせたいのか、製作側の意図が理解できない…)まぁ、押しの弱さもTLSの伝統とご愛嬌ということで。

 向井 弥子  CV.折笠富美子

 トゥルラーたちの間では前人気ナンバーワンだった「向井弥子」(通称:デコ娘)ですが、年下の幼なじみ、という斬新(?)な設定の利点を如何なく発揮してくれました。む、誰ですか?スクール水着が競泳用で物足りないなどと抜かす御仁は? やっこたんは色気のなさがいいんじゃよ(壊)…もとい!主人公に対して素直になれなくていつも喧嘩腰になってしまい、あまつさえ水泳部員に告白されるシーンを目撃してしまった主人公をグーでぶん殴り…神谷さんシナリオが精神的マゾなら、弥子シナリオは肉体的マゾですな。ハイキックのふとともがなんとも…(壊2)…げふげふ、もとい!正統派の幼なじみものとしては、緋奈シナリオの方がよっぽど力が入っていると思いますが、個人的には遊び手の関われない「過去」に捕われすぎる緋奈シナリオよりも、今この目の前にいる「現在」の彼女を好きになろうとする弥子シナリオの方が好きですね。もう1パターンの「水泳大会編」も何が違うというわけでもないけど、その2パターンいずれも魅力的に感じられたのは弥子シナリオだけ。印象の2番手、実力の1番手、というのはTLSヒロインの伝統なのだろうか?

 篠坂 唯子  CV.松来未祐

 トゥルラーの間で結構評判の良い篠坂さんですが、「コンプレックス編」はどうにもいただけない…やはり、篠坂さんはぶっ飛び系お色気&お笑い担当であるべきで、こんなシリアス(風味)な展開なんて要らないんだよブラザー!(?)唯一の笑いどころは、下校会話「世間話」で「エルニーニョってかわいいわね。「にょ」ってことろが」…それに対して、すべって転んでお尻に突撃!から始まる「憧れの人編」ルートは、「メガネメガネ…」で普通に遭遇する「コンプレックス編」とは比べ物にならない好シナリオです。男性恐怖症という篠坂さんのキャラクターも魅力的に描かれているし、「私に男の人のこと教えてください!」という台詞には大爆笑させてもらったし、男性恐怖症を治して憧れの人に告白するための練習相手だったはずの主人公を、だんだん好きになってしまうという恋愛構造も面白かった。(ただし、そこまで想っている人が突然いなくなってしまったことをアッサリと受け流してしまうのはどうかと思うが…)最後の休日デートの選択肢にも非常に苦労させられたけど…結局、メガネっ娘としてのアドバンテージって何もなかったような…(それも含めてTLSのメガネっ娘の伝統?)

 神谷 菜由  CV.松岡由貴

 通称「わがまま姫」(命名:百地誠太郎)こと、コンピュータ部の部長:神谷菜由(様)。高飛車でわがまま放題…って、まるでるり姉だなぁ…と思っていたら、本当にるり姉絡みのシナリオでした。そもそも、出会いからして、るり姉に下僕扱いにされる主人公を見て「あなた(下僕の)才能あるわよ」と声をかけられたわけだし。シスコンの主人公も神谷さんのわがままに振り回されるのはまんざらでもないみたいだし。でも、マゾ属性じゃないプレイヤーにとっては、主人公の色が出すぎてしまうこのシナリオは好みが分かれるかも。主人公の色が出すぎてしまった「るり編」があまり気に入らなかった私でしたが…もうひとつの「わがまま編」を終えてみて…神谷さん株急上昇!普段の行動がアレなだけに、ちょっとだけ素直になって見せる一面がより映える。こんな性格(本人談)になっちゃった過去を打ち明けても全然深刻にならずに、最後までゴーイング・マイ・ウェイを貫いた姿もすがすがしかった(相変わらず、パソコン部の部長になった本当の理由は何の説明もなかったけど)。アクが強すぎるので好き嫌いがハキリ分かれるだろうけど、人気ランキングでも上位に食い込むやも?

 桐屋 里未  CV.笹島かほる

 「孤高の少女」というのもTLSの伝統ですが、別離の辛さを知っているがゆえに、他人との交流を避けていつもどこへ行ってもいいように身軽でいたいというのは「2」の沢田さんとキャラクター被るところがあったので、サダワスキーの私としてはかなり期待していたわけですが…エピソード分岐のポイントが非常に分かりにくくて苦労したし、「バイト編」と「日の出坂編」の間でクオリティに差がありすぎです。しかも、どっちも向かって行く方向は同じなので、無味無臭で中身の薄い「バイト編」だけを見て桐屋さんの評価を確定させてしまう危険性があります。意外とダメ人間な今回)の主人公の性根を叩き直してくれる「日の出坂編」を見るか見ないかで、桐屋さんの評価はかなり変わると思いますよ。ギャルゲーでありながら「自分」の変化を前に出してしまうTLS-Sで多用されている手法は、人によって好みが分かれるでしょうけど。桐屋さんが抱えている問題は結構深刻だけど、分からないようでいて分かったようでもある、そんな結論の出し方もTLSらしいと言えばらしい。あと、番外小ネタですが、桐屋さんと寄り道デートでカラオケに行ったときに、カラオケの画面に松田画伯の描き下ろしらしき絵が1カットだけ出ています(友情出演?)

 有森 瞳美  CV.かかずゆみ

 私は以前から「転校しちゃうのが女の子だったら、どんなTLSになるんだろう」と考えていましたが、なるほど、ここでそう来ましたか。(高校3年生の1学期末に転校するというのが現実的にありうるかどうかはさておき)、年上&優等生好きの私ですが、有森さんはどうもピンときませんでしたね…発売前の期待値が高すぎたためか、ちょっとガッカリです。あまりにも気さくすぎて完璧超人らしさが全然見えなくて、単なる「年上の優しいお姉さん」に終始してしまった。「メール編」では普段のおしとやかな優等生というイメージとギャップのある趣味(お笑い、ロック)の一面が見られたものの、途中で完全にメールのやりとりが途切れてしまって、最後の最後にきてポンとメールのエピソードに繋げられてもなぁ…メールというファクターのおかげで別離の悲壮感がなくなってしまうし、「転校編」ではさらに転校というテーマが前に出すぎてしまい、「年上の悩み」とか「優等生の悩み」とか、そういう部分を入れる余地がなくなってしまった。また、主人公に「送り出す側」としての決定的な何かというものが煮詰め切れていなかったようにも感じる。憧れの人として主人公が想って来た時間と遊び手との間には感覚的なズレが生じるものだし、そのへんを逆手に取った演出があると面白かったのだが…

 (隠しキャラ)  CV.門脇舞

 隠しキャラといっても、名前を隠しているわけではなく、彼女には固定された名前がないんですよ。苗字は「鈴木、佐藤」のうちのどれか、名前は「昭子、恵子、宏子」のうちのどれか。全部パターンを確認したわけではないけど、このような組み合わせで何パターンかあるようなので、「隠しキャラ」としか呼び様がないんです。なんともライター泣かせなキャラですな。ただし、別に隠されているわけではなく、ゲーム中にも密かに背景人物に紛れて登場していたわけで、ただ単に目立たなかっただけ、そして本人の悩みも目立たなくて印象が薄いというズバリそのものであり、いろんな意味で盲点を突いたキャラです。このキャラのテーマは「普通」。廊下でぶつかりそうになったら「そんなこと、実際にあったら危ないでしょ」と言い、夜道で送っていこうかと言おうとしたら「じゃまたねー」と、さっさと帰ってしまうし…極めつけはシリーズ恒例の「吹けよ神風!(パンチライベント)」では「マンガやアニメじゃあるまいし、そんなに簡単にスカートがめくれたりしないよ」と冷静に指摘されて肩透かしを喰らわされ…ある意味、ギャルゲーのお約束を否定しかねない存在ですが、それがかえってすごく新鮮でした。隠しキャラなのにちゃんと最後の休日デートもできるし(その代わり、エピソードは1本しかありません)。でも…このキャラにハマってしまったら、もう他のキャラに萌えなくなってしまうんじゃないのか?という心配も…

 るり姉  CV.茂呂田かおる

 TLSといえば姉妹!前作に引き続き今回も「姉」ですが、かなめ姉さんは双子の姉だったので、正統派の姉というのは今回が初めて。1学年上ということで有森先輩とのつなぎ役にもなっているし、弥子に引き合わせてくれたりと、人間関係でも影の中心的人物として機能してくれました。でも、豪快でものぐさで趣味が「弟をからかうこと」というように、ものすごく子供っぽい人なので、良い意味であんまり姉という感じはしませんでしたね。でも、そのくらいの方がかえって良かったのかも。始めから「姉貴マイラブ!」な展開になってしまうと、恋愛対象を外に求める気分ではなくなってしまいますから。後になってみて、「案外、いいお姉さんだったなぁ」と思えるくらいでちょうどいいのかも。ちなみに、るり姉と下校会話はできませんが、デートはできます(本命の女の子を休日デートに誘った後に、別の女の子と下校するのを目撃されて怒り状態にしておくとデートをすっぽかされますが、るり姉が代打でデートしてくれます)。今作最強のえろえろんCGは超低確率ですが…漢(おとこ)なら意地でも見ておきましょう。

 百地 誠太郎  CV.成瀬誠

 唯一の野郎キャラだけど、これといって何の印象もありません。キャラクター選評を書く段階になって「ああ、そういえば、そんなキャラいたっけ」という程度の印象しかない。だって、「外面の良い盗撮マニアど助平」というあまりにも「美味しい」設定だったのに、ゲーム中では主人公との絡みも極めて少ないし、しかも写真部なのにカメラを構えている画面写真が一回も出てこないのはどういうことでしょう?(誠太郎がマークしている保健室の渚先生に至っては影も形もありゃしないし…OAVでは何事もなかったように出演していましたけど)。隠し撮りの天才は、カメラさえも隠せるのだ!…なんてオチじゃないよね、きっと。実は誰かの事が密かに好きとか横恋慕とかそんな展開もないし、バットエンドを見る方が難しい簡単設計なので、非常に印象の薄いキャラになってしまいました。やはり「2」の木地本みたいに「男も惚れる男」なんてそうそう作れないんだなぁ…