「ORANGE」とは? 愛媛県南予市。人口は3万8千人。穏やかな瀬戸内海に囲まれたこの町は、かつて造船業で賑わっていた。しかし、80年代に工場は次々と閉鎖。現在はミカンの果樹栽培とそのジュース製造が主な産業という活気のない町である…しかし、そんな町にもプロのサッカークラブがあった。「南予オレンジ」。現実のサッカーのJ2に相当する「F2」リーグに所属するサッカークラブである。弱いながらも四国唯一のサッカークラブとして支持されてきたが、あまりにも長い万年最下位の低迷に、サポーターもスポンサーも徐々に離れて行き、先代のオーナー社長が急死して、孫娘の女子高生:盆野美果(16)が跡を継ぐと状況は一気に悪化した。借金の抵当に入っていた選手寮は銀行によって一方的に取り壊され、レギュラー選手は見切りをつけて次々と去って行き、ついには南予市が来年度の資金援助停止を発表。絶体絶命のクラブ存続の危機。そこに現れたが、スペイン帰りの16歳の天才ストライカー:若松ムサシと、大物外国人選手の加入によってポジションを奪われ、強豪クラブを追われた孤高の天才MF:青島コジローだった…今季F1に昇格できなければ、クラブ解散…しかし、誰もが信じなかった奇蹟の復活劇が、今始まる! 地方弱小サッカークラブのリアリティ --万年最下位の弱小チームが、チーム消滅の危機に発奮して奇蹟の優勝を果たす-- これは、通称:映画メジャーリーグの法則として使い古された文法であり、この作品もその例外ではありませんが、この作品には、奇蹟に至るまでのプロセスを筋道を立てて一つ一つクリアしていく事で、奇蹟でも偶然でもなく「必然」に感じさせてしまう説得力があります。試合ごとに選手の個性と適正が発揮されて行き、チームとして着実にレベルアップしていきます。しかし、選手層の薄さは否めず、主力選手のリタイアをカバーできなくてずるずると連敗を重ね…地方弱小サッカークラブの現実を踏まえた上で、勝つということが、昇格というのものがどれほど大変なことなのか、しっかりと描かれています。 この作品との出会いは、地元の弱小JFLサッカークラブを応援している友人に、「面白いサッカーマンガがある」と紹介されたことによるものでした。資金難のためマイクロバスでの長距離遠征を強いられて疲労が溜まり、遠征先での宿舎や練習する場所の確保もままならず、家族を養っていくためにはバイトをしなければならなかったり、選手層が薄いためカップ戦を捨ててリーグ戦に専念しなければならなかったり、日本代表への召集を拒否して苦境に陥ったり、サポーター内部の分裂があったり…しかし、フィクションであることを忘れてしまうほどの厳しい現実を乗り越えてこそ、奇蹟は奇蹟足り得るのです。地方弱小サッカークラブの悲哀というリアリティがそこにはあります。弱小クラブの厳しい現実を知る者にとって、この作品は希望と勇気を与えてくれることでしょう。 サッカーマンガ観を変えるリアリティ また、この作品はサッカーの戦術論の観点からも非常に面白い。マンガだからといって必殺シュートやスーパープレーを連発する他の作品とは毛色が全然違います。この作品で頻繁に描かれるのは、泥臭い中盤の激しい潰し合いや削り合いや意地の張り合いであったり、DFの裏を取るためにスペースへのランニングを繰り返すFWの動きであったり、勝ち点や順位や時間経過や得点経過に合わせた試合全体の流れや駆け引きだったりします。サッカーの本質的な面白さを理解するのに最適だし、それになにより、ドラマとしても文句なしに面白い。レッドカードを出されても今ここで失点しないことを選び、足がつってもう一歩も動けない最後の最後でサポーターの熱狂に突き動かされ、控えに回されても腐らずにクラブを支え続けてきたベテランの意地が…読者はテレビ観戦感覚ではなく、スタンドの最前列…いや、同じピッチ上にいるような錯覚さえ覚えてしまいました。サッカーマンガ好きはもちろん、サッカーの華やかな部分だけでサッカーのすべてを知った気になっている人にも、この今までにない種類の面白さを、是非体験していただきたいものです。
First written : 2003/09/16
Last update : 2003/10/23 |