魔法少女リリカルなのは(文庫)
書籍文:都築真紀
 ファンタジー  勇気と想いの魔法少女物語  全1巻 
イラスト:奥田泰弘・長谷川光司

「魔法少女リリカルなのは(文庫)」とは?

 ”熱血友情魔法バトルアニメ”というキャッチコピーで思わぬ大人気作品となった、「魔法少女リリカルなのは」。魔法少女というより、魔砲少女といった方が合うくらい熱いバトルが見所のアニメですが、それは想いを伝えるために戦うことが必要だから。強い意志で自分を固めてしまうと、傷つけられても間違ってるかもって疑っても…周りの言葉は入ってこない。それでも、言葉を想いを伝えることは無駄じゃない。何度も出会って戦って、何度も名前を呼んで…何度も心は揺れたから…

 そんな「勇気と想いの物語」であるアニメの第二期「なのはA's」放送開始直前のタイミングで、アニメの原作・脚本を担当する都築真紀さん自身の手によって執筆された小説、それが、今回ご紹介する「魔法少女リリカルなのは(文庫)」なのです。

第一期シリーズの「もうひとつの結末」

 この小説版の結末は、第一期アニメとは少し異なるものになっています。アニメ版での最大の見せ場である、なのはとフェイトの最初で最後の本気の勝負は、この小説版では、なのはがフェイトを庇って、プレシアの別次元からの雷撃を受けたことで中断されたことになっており、裁判のために移送される前にフェイトがなのはとの再戦を望んで実現した、という設定です。今までの自分を終わらせるために、どうしてもなのはとの決着をつけたかった。それが母にすがるしかなくて、何もかも曖昧だった自分が、自分の意志で交わした本物の…約束だったから。

 なのは、フェイト、それぞれの視点から戦いに臨む決意を描くとともに、本編では語られることのなかった、プレシアとリニスの過去にも触れられています。プレシア・テスタロッサが魔導研究事故の責任を負わされて、表舞台から去った事件…最愛の娘アリシアとの温かく優しい日々を失い、アリシアの記憶を与えた人造生命のフェイトを憎むようになり、禁断の魔法を求めて狂って行く姿は… なのはA's第11話を観る前に是非読んでおいて欲しいですね。

「なのは」の小説版ではなく、小説の「なのは版」

 この小説版は、「なのは」の小説版ではなく、小説の「なのは版」です。ちょっと伝わりづらいニュアンスかもしれませんが、この小説は外伝でもなければ、小説でアニメを再現するためのものでもありません。小説という技法の独自性を使いながら、アニメとは違う切り口で、それぞれの人物の視点から、互いの想いをぶつける戦いに臨むに至る決意がとても丁寧に描かれています。普通ならそれは「if」でしかないのでが、これに限って言えば原作者自身が再構築した「結末に至るためのもうひとつの過程」であり、本編を補完するためのオマケではなく、本編をより楽しむためのエンターテイメントに仕上がっています。

 特に、小説ならではの思わぬ伏線から繋げられた、スターライト・ブレイカー発動原理を巧みに利用した、なのはの戦技の冴えっぷりとカルタシスは、とても小説とは思えない臨場感がありました。フェイトが「それ、ズルいっ!」と叫びたくなる気持ちが良く分かります。悩みも苦しみも閉ざした心も…これ以上ない最大砲撃で真っ直ぐに気持ちよくぶっ飛ばしてくれたこのシーンは、実になのはらしいと思います。入門用には向いていませんが、アニメ版が面白いと感じた人には、ぜひ併せて楽しんで欲しい逸品です!

First written : 2006/06/29