「マリア様がみてる」とは? 私立リリアン女学園は、伝統あるカトリック系のお嬢様学校である。マリア様に見守られて、幼稚舎から大学までの一貫教育を18年も受ければ、殺伐とした受験とも男女の色恋沙汰とも無縁で、温室育ちの純粋培養お嬢様が箱入りで出荷される、という仕組みが未だに残っている貴重な学園である。特に、高等部は「姉妹(スール)制度」という独特のシステムで有名である。これは、生徒の自主性を尊重する学校側の姿勢によって生まれたものであり、ロザリオの授受の儀式を行い、姉が妹を導くごとく先輩が後輩を指導するというシステムである。このため、特別に厳しい校則がなくても、リリアンの清く正しい学園生活は代々受け継がれてきたのである。 リリアン女学園高等部の生徒会は、マリア様の心にちなんで「山百合会」と呼ばれ、紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)、黄薔薇さま(ロサ・フェティダ)、白薔薇さま(ロサ・ギガンティア)、と尊称される三人の生徒会役員とその妹たちによって運営されており、そして、三薔薇様の妹は「つぼみ」と呼ばれ、次期薔薇様として教育され伝統と精神を代々受け継いでいく。リリアンの姉妹制度の象徴的なカリスマ存在であり、全校生徒の憧憬と畏敬の対象でもある。そんな山百合会の紅薔薇のつぼみ:小笠原祥子が、ひょんなことから平凡を絵に描いたような生徒である福沢祐巳を妹にすると宣言したから、さぁ大変。それが、「マリア様がみてる」、通称:「マリみて」第1話のあらすじです。 「ごきげんよう。」清く正しき乙女だらけの女学園”ラブコメ” この作品は少女小説というジャンルゆえに、世の大多数の男性諸氏にとっては近づき難いイメージがあると思います。かくいう私も、実際に読むまでは踏ん切りがなかなかつきませんでした。しかし、いざ読んでみると…一発でKOされてしまいました。この手のジャンルに免疫が無かったというのもありますが、単純に小説としてもレベルが高いんですよ。1話に上手く収まる伏線の張り方も見事だし、憎まれ役も後でキッチリフォローして魅力的に描いてしまうし、主役のはずの祥子さまと祐巳ちゃんの仲をお手軽に進展させないで、祐巳ちゃんに影響されて変わっていく周囲の仲間達を順番にクローズアップして外堀から埋めて行き、祐巳ちゃんのほんの少しの勇気を大きな一歩に感じさせるシリーズ構成力は、一般的な少女小説というイメージに収まらないハイレベルなものだと思います。読者への感染力も非常に高く、私も日常挨拶で無意識に「ごきげんよう」と口ずさんでしまったりも… 「マリみて」は女子高が物語の舞台だから男女間の恋愛はサッパリありませんが、マリみては基本的にラブコメだと思います。でも、女同士のラブコメだからこそ、男女のラブコメのように「嫌いになったら別れればお終い」というわけにはいかない。何しろ、マリア様に誓って姉妹になったわけだから…軽妙な会話の掛け合いと笑いがあるからこそ、愉快な仲間に囲まれた穏やかな日々があるからこそ、ちょっとしたすれ違いでそれらを失ってしまうかもしれないと考える事が怖くて、痛くて、切なくて…焦る余り何も見えなくなってしまう。でも、答えはすぐ近くにある。本当に大切なものは、ちゃんとこの手の中にあるんだ…誰よりも自分を理解してくれるのが、実の姉妹よりも深い絆で繋がった「姉妹(スール)」なのですから。 お気に入りのシーンは数え始めたらキリが無いけど、特にお気に入りなのが、「いとしき歳月:後編」で卒業する三薔薇様をマリア像の前で送り出すシーンと、「レイニーブルー」のラストシーンで雨に打たれる祐巳ちゃん、「子羊たちの休暇」でマリアさまの心を歌う祐巳ちゃん…惜別、悲愴、感動…久々に、年甲斐もなく理屈抜きで素直に泣いてしまいましたよ。 空前絶後!男性主導(?)の「マリみて」ブーム! 私は、この少女小説の存在はかなり以前から知っていました。行きつけの同人サークルが出していた布教本を買っていたし、口コミで評判が広がって次々と一線級の同人作家が参戦し、瞬く間に単独ジャンルコードができて、オンリー即売会が開かれてしまうほどの巨大勢力になっていく様も具に観察していました。一応イラストはあるものの「マリみて」はあくまで小説なので、読者に想像の余地が残されており、それが同人作家さんの「やりがい」に繋がっているのでしょう。イメージが完全に固定されていないから、自分の画風でキャラクターをアレンジできるのも良いところです。自分が感動したり面白いと感じたシーンを、それぞれの作家さんの絵柄と独自の解釈で表現してくれるのは、原作ファンとしても同人作家さんのファンとしても嬉しいものです。このような相乗効果が、空前絶後の「マリみてブーム」を生んだと言えるでしょう。 「男キャラは名前が出るだけでも許せない!」とさえ言い出しかねない、熱烈な女性読者に支えられた乙女の聖域:隔月コバルトが「マリみて」の連載本誌ですが、この空前のブームは男性主導によってもたらされたものとも言えます。同人という男性メインのフィールドで話題にならなければ、ここまでのブームにはならなかっただろうし、もしこのブームが起きなければ、世の多くの男性はこの作品、そして少女小説という世界を知らずに終わっていた事でしょう。それはとてももったいないことです。私も、美月さんのWEB絵日記「がんばれ美月さん」との出会いが無ければ「マリみて」を読む勇気は持てなかったと思います。いい大人になってから少女小説デビューするのは結構大変なことですが、「マリみて」はその障壁を乗り越えるだけの価値がある名作だと思います。みなさまに良き出会いがあらんことを。 では、みなさま、ごきげんよう。 First written: 2003/07/30
Last update : 2003/10/13 ※マリみての単行本にはシリーズNo.が記載されていなくて順番が分かりにくいので、巻数対応表を作成しておきます。
|