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GM研
ひがしんが大王
同人誌サークル:ラピュタ帝国
 ジャンル:あずまんが大王 
作者:PIA・SAN & 東伸芽

「ひがしんが大王」とは?

 「あずまんが大王」の大きな特徴として、あらゆるネタやキャラとの相性が良い万能素材であることが挙げられます。オリジナルでありながら、どこかパロディ精神を感じさせる空気感が、そこかしこにごく自然に存在しているのです。

 しかし、それだけ魅力的な素材であるということは、同人で「あずまんが大王的な表現」が溢れかえる、というリスクもあるわけですが、人気絶頂でスパッと終わった原作からのネタ供給が途絶えてからも、長く同人であずまんが大王のパロディシリーズを続けてきた作品たちは、やがて独自の笑いへと変化して行きました。そのひとつが、ラピュタ帝国さんの「ひがしんが大王」なのです。

真面目にパロディするということ自体がパロディだと感じる不思議な感覚

 この「ひがしんが大王」は、原作者の東(あずま)さんではなく、東(ひがし)さんが描いてる、それだけの理由で「ひがしんが」と名付けたものですが、そんな理由でいんですか?いいんです!…と作者自身が「ふざけたタイトル」と語っていますが、内容は別にふざけているわけではなく、真面目にパロディしています。真面目なパロディ?というのも妙な表現ですが、あずまんが大王のパロディの良さを説明する上では、これほど的確な言葉は無いかも知れません。

 「ライバル巨人の優勝がくやしくないのか!関西人のプライドは!」というともに対して、「野球は全然見んし、選手の名前も知らんし…ホームランって何点?」と天然で返す大阪に、「あーダメダメ!大阪は阪神ファンって決まりなの!これ日本の常識!」と振った方がキレてみたり。「白い恋人ブラック」に対して、「黒い恋人やあかんの?ほんなら白い変人とか…」とリアクションに困るボケでボケ倒す大阪。メガネを修理に出しているよみに、「メガネっ娘としての自覚が足りんな!」と力説する木村先生。そして、大学生編になっても相変わらずの同級生たちと、朝の講義をさぼってゲームショップに代わりに並べと依頼して、「それでも教師か!」と言われる、相変わらずなゆかり先生…これらはすべて、原作にあってもおかしくないくらい、「あるある」純度が高いパロディに仕上がっています。

原作の隙間を埋めるというより、 ただ当たり前に続いて行く日々を…

 私がこのシリーズに初めて出会ったのは、番外編である「ひがしんが大戦3」でした。サクラ大戦3とあずまんが大王のミックスパロディでありながら、どちらの「らしさ」も失わない面白さを感じ、同人誌による「あずまんが化」に注目するようになりました。

 このシリーズが真価をさらに発揮するようになったのは、原作の枠を超えてからでした。大学生編、そして作者自身の旅行体験を生かした、愛知万博編とハワイ・マウイ編は、あずまんがキャラならこう言うに違いない!と思えるネタが満載です。「もしも雷様がなくなったら…高木ブーが困る!」、「ハワイって意外と外人が多いんやな」、サンセットにたーまやー

 …というように、ためになるようでならない、いつものゆるゆるな笑いばかりですが、それらは、原作の隙間を埋めるパロディではなく、ただ当たり前に続いて行く日々を楽しく描くという原作の精神を、長くシリーズを続けてきたことで、ごく自然な形で受け継いでいるからこそ、作者と読者の間で笑いとして成立しているのでしょう。ファンだからこそ描けた、ファンだからこそ奥の深さを意識せずに気軽に笑える逸品です。