「ひだまりスケッチ」とは? ずっと憧れていた、私立やまぶき高校の美術専門クラスに合格した「ゆの」は、やまぶき高校のまん前に位置する小さなアパート「ひだまり荘」で一人暮らしを始めた。新しい生活への不安は、いきなりドンブリ持参で引越し蕎麦をねだって来た「宮ちゃん(宮子)」と、同じアパートのすぐ下に住む美術科の先輩たち:包容力があって料理上手で気配り上手な「ヒロさん」と、小説の仕事をしながら自分で本当にイメージどおりの挿絵を描くために勉強をしている「沙英さん」の歓迎を受けて、学校でも天然アバウトな吉野屋先生の行き当たりばったり授業…そんな賑やかな面々に囲まれて、寂しさを感じる暇もなかった。 ただ絵が好きなだけで、自分にはまだはっきりとした夢はないけど、いつかきっかけを見つけたい。騒がしくも楽しくて優しい、穏やかなひだまりのような日々の中で…それが「ひだまりスケッチ」なのです。 身悶えするような可愛らしさを生かすためのデフォルメ この作品の特徴として挙げられるのが、デフォルメされたキャラクターの表情の使い分けの巧みさです。ほのぼのとしたキャラクターたちが織り成す、ほのぼのとしたオチ。そのオチでのほのぼのさ加減をさらに効果的に演出しているのが、蒼樹うめ先生独特のデフォルメタッチです。ねこねこソフトの公式HPに掲載されているWebコミック「諸葛謹」の執筆者の一人としての活動で培われたSDキャラの表現手法は、4コママンガでも思わぬ効果を発揮しています。直球で素直な身悶えするような可愛らしいオチに、ポンコツでくだけたデフォルメされたキャラの特別な表情が入ることで、絵柄そのものがしっかりとギャグとして成立しています。これによって、ただ可愛いだけのマンガでもなく、ただほのぼのとしたマンガでもない、独特の雰囲気が凝縮された4コマ漫画に仕上がっているように感じます。 穏やかなひだまりのような日々の中で… まんがタイムきららキャロットの表紙=ひだまりスケッチ、というイメージが定着するほどの看板マンガになった本作。それは編集部からの期待の現れであり、そして読者からの人気の現れであり、その期待と人気に応え続けているという証明でもあります。雑誌連載では巻頭カラーが定位置となっているため、モノクロ化しなければならない単行本だけ読むのはちょっともったいないとも思います。この1作品のカラー版を残しておくだけのために雑誌を買うのも悪くないかも知れませんよ(他の作品もレベルが高いことですし) さて、私はこのレビューの中で、何回「ほのぼの」と言ったでしょうか?恥ずかしいコトバを臆面も無く何度も口ずさんでしまいたくなるような、穏やかなひだまりのような日々の中で…どこか懐かしくて、誰にとっても身近で大切な風景。「萌え」とは記号のようなものではなく、誰の心の中にもある気持ちを揺り動かす「憧憬:のようなものなのかも知れません。萌え4コマの概念に囚われず、普遍的な意味でオススメしたい逸品です。 First written : 2005/12/04
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