「銀色のハーモニー」とは? 世間一般では、「柊あおいの代表作は?」と聞かれると、真っ先に連想するのは、「耳をすませば」でしょう。スタジオジブリの宮崎アニメ(正確には、製作プロデューサー・脚本・絵コンテ: 宮崎駿、監督は故人:近藤喜文さん)の知名度は抜群ですから、これは仕方がない。次点として声が上がるのは「星の瞳のシルエット」でしょうか。デビュー間もない「少女漫画家:柊あおい」の名を不動のものにした最長連載作品であり、少女漫画の王道を行く作品として、今でも恋愛のバイブルとして愛されている作品です。 しかし、上記の二作品を好きな方には申し訳ないけど、その二作品だけで「柊あおい作品」を知った気になるのは早計というものです。私としては今回ご紹介する「銀色のハーモニー」こそが、最も「柊あおい「らしい」作品」であり、「銀色のハーモニー」を読まずして、柊あおい作品を語るべからず! いや、少女漫画を語るべからず! と極論してもいいくらいです。私もアニメ版「耳をすませば」から柊あおいファンになり、少女漫画に傾倒するきっかけにしたクチですが、まぁ始まりは何であれ、この作品に触れるきっかけにしてもらえれば幸いです。 夢と詩の協奏曲(コンチェルト) 「銀色のハーモニー」は、地味で内気な少女:結城琴子と、ピアノスト志望の少年:霧島海の2人の恋愛模様を描いた少女漫画です。音楽的で詩的なモチーフ、やわらくかて繊細なタッチ、感情の機微を表現する絶妙なコマ割り、友情あり笑いあり、そのすべてのバランスが心地よい。真面目で淡くて幼い恋心。でも、息も出来ないくらい強い想い。むしろ、少女マンガの世界では今時珍しいくらい、直球で勝負をしている作品です。だからこそ、宮崎駿監督も柊あおい作品の魅力に強く惹かれたのでしょう。 「銀色のハーモニー」は、ある意味では少女マンガ「らしからぬ」作品なのかも知れません。少女マンガのお約束といえば「恋愛感情のもつれた修羅場」であったり、「ライバルとの三角関係」だったりしますし、この作品にも一応その構図は当てはまります。でも、なぜかピンときません。一般的に、恋愛における外的要因による障害は、切なさを募らせはするけど、むしろ、この作品での問題は、自分の中の内的要因にこそあります。どんなに回り道があっても想いの向っている先はいつも同じなので、読者は何の不安もなく主観を委ねて感情移入することができます。その信頼感・一体感が、この作品の豊かな表現力を更に引き立てているのだと思います。 やさしさにつつまれたなら 柊あおい先生は、りぼん新人まんが傑作集の中で、漫画家としての抱負を『日々の生活のなかで、フト感じる暖かなものを題材に、読者に「よかったな」と思ってもらえるような作品を描きつづけていきたいと思います。』と語っていますが、まさにその通り良質な作品を世に送り出してきました。柊あおい作品の魅力を一言に凝縮すると、「登場人物たちの純粋でまっすぐな想いに裏打ちされた、作者と読者で交わされるハッピーエンドの約束」と言えるのではないでしょうか? この作品を読み終わったとき、私は思わず拍手をしてしまいました。原曲を聞いたことさえないのに、ピアノのトロイメライがラストシーンの背景から聞こえてくるようで、自然に涙が出てきました。涙を拭くのも忘れて、しばらくぼーっとしてしまいました。それは、やさしさつつまれた、本当に幸せな時間でした。感動なんて安っぽい言葉ではとても足りない。少女マンガへの偏見を捨てて、ぜひ一度読んでいただきたい1冊です! First written : 2002/04/26
Last update : 2003/10/21 |