GM研 ゲームレビュー
Ever17 -the out of infinity-
対応機種 : プレイステーション2
   ドリームキャスト
販売/開発 : キッド
プレー時間 : 38時間

「Ever17」とは?

 近未来の海洋テーマ―パーク「LeMU(レミュウ)」に発生した謎の事故によって、51mの海中に閉じ込められた7人の男女の脱出を描いたSFアドベンチャーゲーム、それが「Ever17」です。閉ざされた外部との通信、水圧と浸水の恐怖、致死性のウイルスの蔓延、LeMU完全圧潰まで残された時間は119時間…迫るタイムリミットの焦燥と混乱の中、彼らはやがて気付くことになる。この不自然な状況が人為的に仕組まれたものであり、彼らがここに居合わせたことは決して偶然ではないことに… 見え隠れするライプリヒ製薬の影と謎の少女ココの存在。倉成武と記憶喪失の少年、2人の主人公の視点のズレから生まれる不確かな違和感。全員脱出(もしくは死亡)後に残される「生体反応:1」の表示… 謎の断片を追いかけていくうちに、彼らは真実に辿り着く。無限の繰り返し(infinity loop)に閉じ込められた、過酷な過去と、閉ざされた未来に… 『Never7 -the end of infinity-』の流れを汲むサスペンス恋愛アドベンチャー、それが「Ever17 -the out of infinity-」なのです。

 かつて交わした約束と、いつか還るべき場所へ…

ギャルゲーの構造を逆手に取ったSF意欲作

 恋愛アドベンチャーゲームというものは、通常は主人公の1人称視点で進行するものであり、主人公自身の姿は見えない(もしくは前髪で目線を隠した姿程度)ものである。しかし、「EVER17」は、倉成武と少年という2人の主人公の視点を選択させることで、この”視点”の構造そのものを逆手に取り、”主観”としての視点だけでなく”空間”としての視点によって、謎を巧妙に隠しつつ特殊な世界観と巧妙に構築された罠にプレイヤーを引き込むことに成功しました。この手法そのものは前例が無いわけではないが、一歩間違えればすべてを台無しにしてしまいかねない危険性をも孕んだ手法です。しかし、遊び手を「騙す」こと自体に大きな意味を持たせた今作は、稀有な成功例だと思います。

 あらゆる設定に意味や必然性があったのも非常に面白かった。聞きなれないドイツ語の表記自体にも必然性があったし、「T.Y」というイニシャルの扱い方も上手かった。RSD(Retinal Scanning Display)、飽和潜水仕様、第3視点、ピグマリオン伝説、など多用される科学・哲学・医学・考古学などの専門用語も、世界観の強化とともに謎のスパイスとしても一役買っている。これらの設定の面白さは、SF(サイエンス・フィクション)作品として見ても、非常に高いレベルで完成された”意欲作”だと高く評価したいと思います。

ever〔副〕いつも,常に,絶えず,いつまでも,永久に

 惜しむらくは、恋愛物語としてはプロセスが消化不良ぎみであることと、キャラクターの攻略順が自由であるがゆえに、シーンの整合性と謎の解釈に”紛れ”が起きてしまうことである。ベストの攻略順には諸説あるようだが、おそらく唯一の答は存在しません。重要なのは、攻略の際に間隔を空けないで一気にプレーすることであり、なるべく先入観を持たない状態で「気持ちよく騙されること」にあるのですから。でも、これらのマイナス要因は結局は些細な問題であり、ヒロインへの感情移入と謎への好奇心が勝るため、ゲーム中にはさほど疑問には感じないでしょう。

 ゲーム序盤の掴みの弱さや、謎が解けないまま30時間近い前フリを悶々と過ごさねばならないなど、超えなければらないハードルは決して低くないが、ゲーム終盤にすべての謎が怒涛の勢いで1点に収束していく知的興奮と、それまでの苦労がすべて報われる最高のハッピーエンドのためなら、決して損だとは感じないでしょう。

 久しぶりに「誰かとトコトン語り合ってみたい」そんな気持ちにさせてくれたこの名作が、ギャルゲーという見た目と偏見によって、世の大多数のゲーマーの目に止まることなく敬遠されてしまうことがないよう、切に願いたいものです。

First written : 2002/09/13
Last update : 2003/10/14


Ever17 キャラクター選評

※この選評は重度のネタバレを含んでいます。「Ever17」は謎がすべてゲームであり、例え僅かでもその答えを知ってしまうことはゲームの楽しみを致命的に損なう恐れがあります。ネタバレの部分は白文字で隠してありますので、ゲームをすべてクリアした方のみ、選択反転させてお読みください。なお、この注意を無視してネタバレ部分を読んでしまった場合、GM研は一切責任は取りかねますので、くれぐれもご注意ください。

田中 優美清春香菜
 鳩鳴館女子大学教養学部人文科学科1年(考古学専攻予定)の18歳。"優美清春香菜"という果てしなく長い名前を本人は嫌っており、友達の多くは彼女のことを"優"または"なっきゅ"と呼ぶ。サバイバル的な知識とオカルト関係の知識が豊富で、とにかくよくしゃべる。豪快。愉快。痛快。気後れしない性格。連休限定の短期アルバイトとして、17年前に失踪した父親の手掛かりを求めて、父親が最後に目撃されたLeMUにやって来たのだが、そこで謎の事故に巻き込まれることになる…
(以下、重度のネタバレ)
この長大な名前のインパクトはすごかったし、あまりにも長すぎるから「優」と省略している呼び方や、「T.Y」というイニシャルでさえもトリックになっているという、盲点を突いた構図が非常に面白かった。それにしても、優春と優秋は、いくら同じ遺伝子を持つ存在だからと言っても、全く同じ人格になるように育てるのは非常に難しいと思うのですが…優春はキュレイウイルスの影響で老化が止まった、と仮定すると、全細胞が書き換えられるまで5年、つまり優春は外見上と肉体的には24歳のままということになります。優秋、いくらなんでも気付けよ!と思わないでもないが…片目でサインペンの蓋をはめる際のエロ文章は、ソニーチェックぎりぎりの際どいものであり、ライターさんの遊び心としては面白かったし、猪突猛進で竹を割ったようなエネルギッシュでサバサバした優の性格は、個人的にはとても好きなので(エヴァのアスカ属性なので)、欲を言えば、倉成への隠した想いとか、少年(桑古木)と過ごしてきた17年間とかのエピソードを盛り込んで欲しかったなぁ〜(でも、饒舌に世界や設定を語らない事と、想像の余地を残したからこそ、「Ever17」は歴史的な名作となりえたとも言えます。)

松永 沙羅
 鳩鳴館女子高等学校2年生の16歳。篤志貢献奉仕派遣(要するにボランティア活動に名を借りた修学旅行的な学校行事)でLeMUにやって来た。沙羅は優の部活動(ハッキング同好会)の後輩であり、世界最高レベルの暗号解読大会で優勝するほどの凄腕のハッカーでもある。優は沙羅のことを可愛がっており、沙羅もそんな先輩(なっきゅ先輩)のことだけは大変慕っているようだ。その日、沙羅は誰かと待ち合わせするためにLeMUにやって来たのだが…
(以下、重度のネタバレ)
私は、ソフマップで開かれた、声優の「植田佳奈」さんのサイン会のイベントに参加した手前、沙羅編から攻略を始めたわけですが、沙羅編は他のシナリオに依存している部分が強いので、ファストプレーでやってしまうと何が謎なのかよく分からないうちに過ごす羽目になり、話の密度が薄く感じまてしまう恐れがあります。選択の自由度と、物語の見せ方との葛藤…物語の構造として「武編で沙羅がいないこと」を不自然に思わせる必要があるし、つぐみとの関係が明らかになるのはココ編に譲らなければならないので、沙羅シナリオ本編単体の印象が薄くなってしまったのが残念です。それに、水深34mから泳いで脱出する場面には疑問が残ります。ほとんど泳げなかった沙羅を抱えて、しかも服の抵抗を考慮するとかなり無理があるような気がします。でも、「お兄ちゃん」と呼ばせることで少年の本名を疑問に思わせず、謎を巧妙に隠した構図は非常に面白かったし、すべての謎が明らかになった後、沙羅がどんな思いで兄と母を待ち続けていたのかが痛いほど分かりました。

茜ヶ崎 空
 LeMUの案内係を務めている人工知能(AI)プログラムで、正式名称は「LM-RSDS-4913A」。RSD(半導体レーザーを直接網膜照射する画像表示システム)によって、その場に存在するかのようなリアリティを実現。「衝動」や「意思」を持ち、自律した考えを持ているかのように思わせる高度な学習システムを持つ。常に論理的で冷静で、感性や情によって動かされることはなく、あらゆる現象を記憶し分析し、合理性のみを基準として行動する彼女だが…
(以下、重度のネタバレ)
学習機能を備えた人口知能が、恋愛という矛盾した非論理的な感情に辿り着いた時、それは致命的なバグになる…AI恋愛モノには必ず付いて回る、この永遠の命題に挑んだ空シナリオは、この作品唯一の恋愛モノだと言っていい思います(つぐみと武の行為は衝動(orあてつけ)だし、優春と少年は恋愛というより親愛の情みたいなものだし)。つぐみと武の行為を知ってしまい、その感情が嫉妬だと理解できないで、忘れたい、心が痛いと切々と訴えて、AIにあるまじき殺意すら抱く彼女の姿には、ヒトではないという哀しさと同時に、限りなくヒトと同じものを感じて、より一層愛しく感じました。でも、気絶している間に勝手にDNA鑑定するのはどうかと思いますが…「倉成先生と茜ヶ崎君」のエピソードは恋愛モノとしても最高だったけど、その中でも「ガラス越しに重ねた手の平の温もり」には思わず熱いものがこみ上げてきました。最後の最後まで伏線として効果的に使われていた構造は見事のひとことに尽きるが、「ぽちっとな」を空が記憶している事を”奇跡”で片付けてしまうのは、そこまでが完璧だっただけに少々引っかかります。それと、空が実体を持つようになった理由には何も触れられていなかったが、17年間で科学技術がどれほど進歩するかを考慮すれば、それほど不思議なことではないでしょう。ドラマCD「2035」では、空の恋の行方が補完されているので、空ファンなら確実に押さえておきましょう。

小町 つぐみ
 多くを語らない、謎に包まれた少女。何のためにLeMUを訪れたのか、何を考えているのか……。――彼女は何者なのか。 心を見透かす冷徹な瞳。他人を拒絶する言動。凍りついた心の扉は、容易に開くことはできない。ただ、その先に微かに垣間見えたものは、ほとばしるような灼熱の怒りと、慄然とするほどの狂気だった。
(以下、重度のネタバレ)
他のシナリオのつぐみは単なる挙動不審者だし、つぐみシナリオ本編でも謎だらけで全然好きになれなかったが、ココ編で明かされた彼女がLeMUを訪れた本当の目的と、あまりにも苛烈な過去を知り、そして、ホクトと沙羅との親子の名乗りの場面では号泣してしまいました。その背景に流れていたEver17のメインテーマ(ピアノソロ)を聞いた時、思わずゲームのオプションをいじって音量を「大」に設定し直して聴き入ってしまいました。今でもこの曲を聴くたびに、そのシーンを思い出して涙が出てしまいます。これまでの数々の不可解な言葉も行動も、「母性」という名の本能のもとでは、すべてが肯定されてしまったし、つぐみを助けるために自ら犠牲になってバラストとなった武に、泣きながらバカと言い続けた「女」としての本音…その瞬間、つぐみはこのゲームで一番のお気に入りキャラになりました。EDで”着ぐるみの理由”が明かされたのも面白かったし、「ぶっきらぼう娘=浅川悠」の配役もバッチリでした。

八神 ココ
 無邪気で、いつも幸せそうな少女。そのぶっとびぶりは放送コードすれすれであり、彼女の言動(マイクロウェーブ)やアメリカンジョーク(米っちょ)は、聞く者、見る者の脳を揺らす……。ココには、これと言った取り得は無く、意味も無くスプーンを曲げれることぐらいが唯一の自慢。しかし、それ故に彼女は、まわりのみんなに愛されている。憎めない、愛嬌のある少女。ココの最大の取り得は、そんなところにあるのかも知れない。
(以下、重度のネタバレ)
本場のアメリカ人が聞いたら怒るような、笑えない異次元アメリカンジョークで、ぶっ飛んだキャラなので、ロリ属性の方であってもココに萌えるのは無理難題かもしれないが、そうして恋愛対象としてはノーマークな存在だったからこそ、謎の最深部を任せることができたし、ココの”規格外”なイメージによって、”物語の結末への道筋が相対的に自然に見えてくる”という効果があったと思います。それと、BW(ブリック・ヴィンケル)の姿が見える理由を「超能力」のひとことで片付けてしまうのは、超能力が実在すると仮定した論理としては合理的ですが、どこか感情として納得しかねます。ココの言動が発するマイクロウェーブが次元の壁を超えて4次元存在をも捉える、と考えられなくも無いが…でも、ココにとっては「見えるものは見えるんだからいいじゃない」という程度の問題に過ぎないのでしょう。その純粋さがあればこそ、この作品は30時間を越える謎の果てに、ハッピーエンドを迎えることができたとも言えるのですから。


Ever17 ドラマCD「2035」における考察

※このドラマCDは、ゲーム本編クリア後のエピソードであり、完全にネタバレです。読者の皆様の自己責任において白文字を反転させてお読みください。

 まず、タイトルの「2035」、この時点で早くも完全にネタバレですね(ゲームをやってない人には全く意味不明な数字でしかないけど)。ドラマCDの舞台は、ゲーム本編のエンディングから1年後の2035年。17年の呪縛から解放され、動き始めた登場人物たちの時間。だが、彼らは新たな問題に直面する。それは、実体を持つ人間となった茜ヶ崎空が、容量爆発を抑制するプログラムによって感情システムを蝕まれ始めたことである。三度集結した彼らは、空を救うことが出来るのか?

 ゲーム本編では、物語後半の怒涛の展開に押し流されてしまい、記憶も戻らないまま少々曖昧な存在のまま終わってしまった「2017年の少年=2034年のニセ倉成武=桑古木」を主役にして、大団円の中何気にカップリングから漏れてしまった空とのカップリングを成立させたのは、ごく当然の成り行きだと思います。倉成武とココを救うためだけに17年もの年月を費やして第三視点計画を成し遂げた彼にとっても、LeMUシステムから解放された空にとっても、事件の終わりはゼロからの新しい始まりだったのですから。

 ストーリーとしては、ベタだけどなかなか面白い展開だったと思います。惜しむらくは、「倉成先生(武)に恋をしていた自分」を空があっさりと流してしまっていることです(感情喪失騒動でそれどころではなかったんだけど…)。桑古木の中では武への憧れとコンプレックスが消化されるまでのプロセスがしっかりと描かれていますが、空自身が武にそれほど拘っていないので、嫉妬とか想いを断ち切るとか、そういう感情の深い部分での心理描写が弱くなってしまいました。ラストシーンで私が泣けなかったのは、空の涙の意味を計りかねたからです(後になってよく考えてみれば、そうした一連の出来事はBWによって空にも伝わっている、とも解釈できますけどね)。

 また、原作の性質が性質だけに、設定面でのツッコミどころも満載です。音だけのメディアだから致し方無いが、姿形の無い高次元存在:BW(ヴリック・ヴィンケル)召還を風で表現したり、なぜBWの視点を春香菜がライブで認識できるのかとか、BWに意志があるかのようにしゃべらせてしまうのはどうかと… ライプリヒ製薬の巨悪が明らかになって崩壊したにも関わらず、懲りずにLeMUがまた再建されたというのもなんだか妙な設定ですな。それに、あたかも危機を予期していたかのように、BWがキスしただけで出てくるなんて…17年かけてBWを召還した春香菜さんと桑古木の立場は一体?うーむ…

 しかし、それらすべての要素を考慮して総合的に評価してみると、一般的なゲームのドラマCDに比べれば遙かに魅力的なドラマCDだと思いますよ。企画モノの色合いの強い外伝的なパラレルストーリーではなく、あくまで正統な後日談に仕上げようと奮闘した、ドラマCDのスタッフの姿勢に好感が持てます。ゲーム本編は、ゲームという構造を巧みに利用して、遊び手を最後まで「騙しきった」からこそKID作品史上空前の高い評価を得たわけであり、同じアプローチで音だけのメディアで、たったの56分程度の尺でそれを表現するのは難しい。それは当たり前である。しかし、「ゲームを完全にクリアしている事」を前提にしてターゲットを絞込み、そしてそんな猛者たちを満足させる妥協の無い作品作り、それができれば、音だけでもここまでやれる。そんな物作りの基本を思い出させてくれる1枚だと思います。

Last update : 2003/02/14