GM研 漫画レビュー
「A・LI・CE」とは? 2001年4月13日、私はコミックビームのメールマガジンにて、漫画家:木崎ひろすけ先生の死を知りました。俄かには信じられなくて、角川書店の正式な弔辞を読んでも実感が沸きませんでした。しかし、時間が経つにつれて徐々に喪失感が募り、多くの漫画関係者と読者がその死を悼み、数多くの追悼文が書かれました。私もその1人として「少女ネム」のレビューを書くことで、哀悼の意を示しました。 同年9月25日には角川書店とエンターブレインの合同追悼企画として単行本3作品(「A・LI・CE」「少女ネム」「グランド・ゼロ(GOD-GUN世朗:改題)」)が復刻されました。今回ご紹介する「A・LI・CE」は、タイムスリップした未来世界を舞台に、ひとりの少女が運命と戦う物語です。木崎氏がキャラクターデザインを手掛けたフルCGアニメ「A・LI・CE」のコミック版で、残念ながら木崎氏の急逝によって未完の遺作になってしまいましたが、最終話まで含めた完全版として復刻されました。 遺作 スクリーントーンもアシスタントも一切使わない、ホワイト修正すら許されない一発描き。スピード感と透明感があって、シンプルな優しさがあって、そして、どこかとても儚げで… その独特の画風は、マイナー誌連載ながら漫画好きたちの心を掴んで離しませんでした。しかし、月刊少年エース誌上での連載は、健康状態の悪化から徐々に間隔が長くなり、2001年3月号の巻末の作者近況の一言「じゃ」という言葉を最後に、「A・LI・CE」は完結を見ることはありませんでした。同年3月28日、急性心不全のため木崎氏は亡くなりました。享年35歳。それは、あまりにも早すぎる、天才の死でした。 亡くなってから価値が認められるというのが美術の世界での常識ですが、漫画という分野においては、これは珍しい現象です。ヒットの方程式を追求して大量消費されていく大衆漫画文化の中にあって、木崎氏は、文字通り命を削ってまでして”漫画そのもの”を突き詰めようとした…だからこそ、私達は木崎氏の作品に魅せられたのでしょう。 漫画芸術家という生き方 多くの編集者がその圧倒的な画力に一目惚れしたが、同時に、極端に無口で漫画を純粋に追求しようとする木崎氏に困惑していたようです。比類なき才能を持ちながら、いくつもの出版社と雑誌を渡り歩き、代表作と言うべき3作品はいずれも単行本1巻のみで未完となってしまいました。 作品を残すことではなく、結果を追い求めることではなく、漫画そのものを突き詰める…それは漫画家と言うよりも、芸術家のような生き方です。それは誰にでもできることではないし、プロの漫画家の姿勢として正しいとも間違っているとも言えません。確かに言えることは、それが「木崎ひろすけ」という漫画家だったということと、読者にとって忘れ得ぬ特別な漫画家になったということです。私は遺された作品たちを大切にして、読者の1人として、レビュアーの1人として伝えていきたいと思います。時を経ても色褪せぬ作品と記憶を… 改めて、漫画芸術家:木崎ひろすけ先生の冥福をお祈りいたします。 Last update : 2002/03/28 木崎ひろすけ先生一周忌にて
|