Memories Off とは?
「Memories Off」とは、家庭用オリジナルのギャルゲーで数多くの佳作を輩出してきた「KID(Kindle Image Develop)」の出世作にして代表作であり、その世界観を受け継いだ続編が「Memories Off 2nd(以下、メモオフ2)」です。でも、続編と言ってもキャラクターは総替えですし、共通しているのは一部の世界観とコンセプトだけなので、「2nd」からの新規ユーザーも問題なく楽しめます(かくいう私も「1st」未経験者ですので、前作との比較評価はできませんが…)。 派手な色使いと無茶な設定(ある日12人の妹が!とか)が当たり前になってきているギャルゲー界の風潮にあって、「メモオフ」はその正反対に位置する作品です。地味すぎる程に抑えられた写実的な色使いと、恐ろしく現実的で深い人間関係の設定とコンセプトは、2ndでも健在です。しかし、それゆえに、表現されるものがストレートで痛みを伴うものでもあるため、遊び手を選ぶゲームでもあるのですが… 奇跡の起きない物語 物語の舞台は海辺の田舎町の高校。3年生の夏休み。主人公の「伊波健(通称:イナケン)」はサッカー部を引退し、目標を見失っていた。主人公には、付き合い始めて半年になる「白河ほたる」という彼女がいた。彼女のピアノの腕前は全国トップクラスであり、夏のコンクール全国決勝に向けて猛練習の日々を送っていた。今まで当たり前のように、毎日一緒を過ごしていた2人の気持ちに生じた居心地の悪い空白。逢えない時間がほたるの想いを募らせてゆく。だが、主人公は逢えない時間の中で気付いてしまった。「ぼくは本当にほたるの事が好きなのだろうか?」…些細な誤解で、すれ違う心。心に生じたほんの小さな波紋は、やがて取り返しがつかないものになっていく… 「親友の彼氏を好きになったりしちゃいけないのに、嫌いにならなきゃダメなのに…ごめん、やっぱり嫌いになんてなれないよ…」、「妹の大切な宝物を取り上げることなんて、私にはできない…諦める事には慣れている。だから…」、「わかっていた、彼があの人じゃないって…それでも私は彼の事が…」 6人のヒロインたちは、伊波健と出会い恋をする。そして、それゆえに苦しむことになります。 すべての結果には必ず原因があり、その結果が招いたものが、修羅場や破局や悲劇であれ何であれ、それは、自らの手で選び取ってきた結果として受け入れなくてはならない。そこには都合の良い奇跡なんて起きません。奇跡を安売りしないで、この当たり前の現実だけを突きつける。それが「メモオフ2」のコンセプトであり、「奇跡の起きない物語」の意味なのです。 奇跡の起きない物語が起こした奇跡 私は、このゲームの主人公が大嫌いでした。最後の最後まで1ナノ%たりとも感情移入ができませんでした。1人称視点で進行するギャルゲーにおいては、これは致命的な欠陥です。にも関わらず、私はこの作品を非常に高く評価しています。なぜなら、主人公を憎むことができたからこそ、客観に徹することができたからこそ、ヒロインたちの苦悩をより真摯に受け止めることが出来たのですから。そう、この作品は厳密な意味ではギャルゲーではありません。本当の主人公は、6人のヒロインたちなのです。「主人公主観で攻略する」というより、「彼女たちの恋の行方を客観的に見守る」と言った方が感覚的に合っているような気がします。 奇跡に頼らないがゆえに、くどいほど冗長なまわり道や、心情描写が多用されています。そういう丁寧さや誠実さが「メモオフ2」の高い完成度を実現していると言えますが、物語に誠実であろうとするということは、プレイヤーに対してある一線を越えてしまうと裏切りに変わってしまう危険性もあります。それを良い意味での裏切りと受け取れるかどうかは、プレイヤー次第ですが、その判断を自信を持って委ねるだけの説得力が「メモオフ2」にはあります。「泣き」でも「萌え」でもなく、丁寧な描写ができれば素直に「感動」することができる。それが「奇跡の起きない物語が起こした奇跡なのです! First written : 2001/11/01
Last update : 2003/10/31 Memories Off 2nd ヒロイン選評
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