「月姫」とは?
「月姫」とは、2000年の冬コミ(コミケ59)での発売以来、瞬く間に同人業界を席巻してしまった、同人オリジナルのビジュアルノベルです。シナリオ枚数5000枚、グラフィック総数500枚以上! 圧倒的な物量で同人ゲームの常識の限界に挑戦した今作は、同人業界のあらゆる記録と常識を覆してしまいました。月姫の同人誌=いわゆる「同人の同人」も多数作られ、「月姫オンリーの同人誌即売会」まで開かれてしまいました。あまりの人気ぶりに業者委託販売の開始時には異例の店頭予約が行われ、出版社は競うように公式アンソロジーを次々に出版し、グッズも次々と作られて行きました。さらに口コミで広がり続ける「月姫現象」は衰えることを知らず、追加ディスクや外伝「歌月十夜」も絶好調であり、ついには伝説の同人格闘ゲームサークル「渡辺製作所」とのタッグ企画「MELTY BLOOD」まで実現させてしまい、2003年4月2日には商業ブランド移行宣言を行いました。同人界に数々の伝説を残したゲーム、それが「月姫」なのです。 私はこの作品に敬意を表して、市販のパソコンゲームと同列にみなしてレビューを書くことにしました。市販ゲームに引けを取らないどころか、圧倒すらしかねない、このような名作が同人業界から生まれた事と、同人業界が作品の後押しをすることで自ら市場を切り開いた事を非常に嬉しく思います。新たなるゲームの伝説の始まりをリアルタイムで見守ることができるのですから… 吸血鬼VS殺人鬼 「月姫」の物語を端的に要約すると、『吸血鬼VS殺人鬼』『過去と血と衝動』、といったキーワードに集約されます。純白の吸血鬼の真祖「アルクェイド」、埋葬機関の黒き不死身の暗殺者「シエル」、主人公の妹で紅の略奪者「遠野秋葉」、遠野家のメイドであり双子の感応者「翡翠・琥珀」…そして、壮絶な戦いの中で覚醒する主人公「遠野志貴」の殺人鬼としての血…あらゆるモノを死に至らしめる「モノの死にやすい線」が見えてしまう主人公の忌むべく能力「直死の魔眼」が導くものは、救いようの無い悲劇か、それとも… 月姫の正確なジャンル分けをするならば「猟奇的サバイバル伝奇ビジュアルノベル」です。同人ゲームのお約束でねちっこい濃厚なエロシーンもありますが、それはごく一部であり、それ以外は全般的に鬱屈した暗い血の渇きと殺人衝動で埋め尽くされています。1プレーには約7時間くらいかかりますが、練り込まれたシナリオと世界観、魅力的なキャラクターとの軽妙な会話のやり取りが退屈させません。5人のヒロインごとに同量のシナリオが用意されている上に隠しシナリオまであるので、コンプリートするには30時間以上が必要になります。質的にも量的にも、同人ゲームだからと油断していると返り討ちに遭いかねません。なるべく十分な時間的な余裕とフラットな精神状態を持って臨戦しましょう。 反転する常識 個人製作のゲームゆえに、誤植や考証ミスや絵の塗りの甘さや曲数の少なさとかバックログ機能がないとか…揚げ足を取ろうと思えばいくらでもできますが、これらは本当に些細な問題に過ぎません。ゲームという概念すら反転させてしまいかねない圧倒的な魅力と存在意義が、月姫にはあるのですから。資金も組織も無くてもこれほどの作品が作れるという事実は、現在の商業ゲーム界の標準である完全な会社主導型のゲーム作りが、いかにつまらないものなのかを露呈させてしまいました。世の中にはゲームという名前の「商品」は掃いて捨てるほど溢れていますが、「作品」と呼べるようなゲームは数えるほども無いのが実情ですからね。 とにもかくにも、2500円(委託価格)で、これほどのクオリティを持ったゲームが遊べるというのは驚くべきことです。これほどのクオリティを前にしては、商業も同人も、もはや関係ありません! 「同人だから」「エロゲーだから」という偏見を持たずに、機会があれば是非触れてみてください。同人ゲームの品質革命を巻き起こした歴史的作品として、後世に伝えられるべき逸品です!
First written : 2001/10/01
Last update : 2003/11/03 月姫ヒロイン選評
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