monthly Doujin Review
大羽なお とは? 大羽(おおう)なおさんとは、同人誌個人サークル「チキンなげっと」を主催する準大手同人作家であり、また、商業誌(メガフリーク)での連載経験もある新進気鋭の漫画家でもあります。残念ながら雑誌は10月号を最後に休刊になってしまいましたが… モノトーンの落ち着いた画風、心理描写を巧みに描く構成力、ともにトップクラスの実力を持つ大羽さんがメジャー漫画家になるのも、そう遠い未来のことではないでしょう。新しき才能の開花を見守ることが出来るのは、ひとりの漫画好きとして幸運なことであり、同人誌の醍醐味でもあります。 モノローグを染めて 私は大羽さんの作品を紹介するとき「モノローグの魔術師」というコードネームを使います。「モノローグ」には「独白・一人芝居」といった意味があり、これほど大羽作品を形容するのに相応しい言葉はないでしょう。「心理描写や己の思想を書くために漫画を描いている」と公言する大羽さんの自己分析は正鵠を得ていると思います。 今回ご紹介する「微睡みの中、凍える翼。」は、ゲーム「Kanon」の水瀬名雪オンリー本です。どうやら鍵っ子(=Keyファン)からの評判はあまり良くないみたいですが、私のツボにはクリティカルヒットでした。天然ボケキャラゆえに同人誌ではシリアスで描かれる事がほとんどない名雪ですが、今作ではゲームのエンディングでは未消化気味だった「それからのふたり」を、名雪の心の葛藤と決意(=モノローグ)を繊細に描くことで補完しています。確かに「らしくない」かも知れません。ですが、「そうあって欲しい」と私は感じました。 伝わりますか 大羽作品には読後に「ハッピー?」という感想を抱かせる独特の性質を持っています。これは「結末としてのハッピーエンド」ではなく、「これから始まるハッピーエンド」を描いている事に起因します。 相沢祐一と水瀬名雪。大羽さんが「天然ストライキカップル」と評しているこの2人は、微笑ましく、また、じれったくも感じます。なまじ相手をよく知っているだけに、「わかってくれるはず、わかっているはず」というように、相手に過剰な期待を寄せてしまいます。もたれ合いという依存。とても近くて、とても遠い心… らしくなくても一歩踏み出す勇気、伝えるという勇気。言葉では伝わらないものが確かにある。だけど、それは言葉を使い尽くした人だけが言える事です。伝えることから始めよう。それがいつか信頼という絆になるときまで…
※画像使用許諾:2001/08/28
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