ファイナルファンタジーX
PS製作:スクウェア   2001/7/19発売
 冒険・育成  ファンタジーRPG  26時間 
シナリオ:野島一成 キャラデザ:野村哲也
技術の行き着く先

 「ファイナルファンタジー」のPS2移行第一弾に注がれる期待は非常に大きなものでした。PS2というハイスペックを持て余した「ただ綺麗なゲーム」の蔓延によるゲーム市場全体を覆う沈滞ムード。増え続ける制作費と伸び続ける製作期間によって創業以来初めて赤字に転落したスクウェア。ゲームアナリスト達の市場予想は非常に厳しいものでした。

 しかし蓋を開けてみれば、初回出荷分214万本を1週間でほぼ売り切り、国内287万本、海外302万本というPS2のRPGでは歴代最高のセールスを記録しました。PS2本体の普及と覇権の確立にも大きく貢献し、十分にキラータイトルの重責を全うしたと言ってよいでしょう。頬を伝う涙すら描く圧巻のムービー、平均を遥かに超える質のリアルタイムポリゴン。違和感の無いフルボイス、圧倒的な臨場感を作り出す5.1チャンネルサウンドシステムへの対応… それは、現代ゲーム最先端技術の結晶であり、そして、技術の行き着く先にあるもの。それは一体何だったんでしょうか?

世界で一番ピュアなキス

 CMにも多用されていた「世界で一番ピュアなキス」という言葉とムービー。普段ゲーム雑誌からゲームの情報を得る習慣の無い人たちにとっては、このCMはかなり効果があったようです。しかし、あのシーンは、実は表面的なイメージで伝わっているようなラブシーンではないのです。ネタバレになってしまうので詳しく説明することはできないのですが、「ピュア」というより「悲しい」シーンです。「感動」ではなく「悲壮」なシーンです。このシーンの解釈は、この物語の真意を理解する上で決して外すことはできません。

 FF10のシナリオのテーマは「死」と「決意」です。永遠の死の螺旋に囚われた、悲しみの大地:スピラ。束の間の平和(ナギ節)を作り出すために命を捧げる召喚士とガード。復活を繰り返す「シン」の脅威に怯えながら暮らす人々… しかし、主人公達は、死んで楽になるのではなく、生きて悲しみと闘う道を選んだ。悲しみを忘れのではなく、悲しみを消すために。たとえ、それが自分の気持ちを欺くもので、 悲しい結末をもたらすと分かっていても…悲壮なる決意を胸に抱きながら、たった一度だけ漏れ出てしまった穏やかなる激情。ゆるぎない決意をお互いに確かめ合いながら、いつか来る別れ時を惜しむように…

 世界で一番悲しいキス。それがFF10のシナリオの全てと言っていいかも知れません。

物語とゲームは両立するのか?

 FF型RPGのお約束であるミニゲームは、今回もてんこ盛りです。水中バスケ「ブッリッツボール」、モンスター捕獲収集、アイテム改造、隠しダンジョン… これらのやり込み要素をすべて無視したとしても、クリアするまでには平均で35〜40時間程度が必要になります。これは大作RPGの標準よりも短いくらいなのですが、果たして、FF10で初めてゲームをやるような初心者が、この40時間ものゲーム時間に耐えられるのでしょうか? 途中で投げ出してしまう人も多いかもしれないけど、願わくはこれだけでゲームを嫌いにならないで欲しいものです。FFは例外的な存在のゲームであり、ゲームのすべてではないのですから。

 私も堅気の仕事を持つ会社員ですので、平日のRPGの攻略は非常に苦労しました。定時に帰宅して目一杯やっても4時間が限度です。明日に備えて話の切りのいいところで終わらないといけません。でも、話の続きが気になって、仕事が手につかない。で、帰って速攻で攻略を進めていたら理不尽に全滅させられたりして、ストレス急上昇。精神的にも肉体的にも辛かったです。そこでしみじみと考えたのが、「物語とゲームは両立するか」という永遠の命題です。

 ゲームという容れ物の中で、FF10は最高の物語を作り上げましたが、しかし同時に、ゲームであるがために物語以外の部分での評価に左右さるという宿命を持っています。未だに誰も解決できないこの永遠の命題を、現行のゲームに問うことは不毛なことかもしれません。ですが、そこを変えなければRPGに未来はないのです。願わくは、ネットワークという安易な新機軸に逃げることなく、物語とゲームの新しい関係の構築に挑戦していただきたい。挑戦こそが、FFがFFである理由なのだから。

First written : 2001/08/01
Last update : 2003/11/03