作者 | : 冬馬由美 |
出版社 | : ソニーマガジンズ |
人気声優:冬馬由美さんといえば、「ああっ女神さまっ:ウルド」や「ロードス島戦記:ディードリッド」など、数々のキャラクターを演じてきた、押しも押されぬ一流声優です。しかし、最近の声優アイドルブームの中にあってはちょっと地味な印象もあったのですが、意外な分野「小説」に挑戦して、今作「ワイルド・エンジェルス」で小説家デビューを飾ることとなりました。
私は失礼ながら、購入特典のサイン会が目当てだったので、中身はまったく気にしないで購入したのですが、読んでみると意外や意外。なかなかどうして。読み応えたっぷりの正統派アクションノベルだったのです。
ストーリー紹介と書評
アメリカ合衆国において、悪の謀略から国家と要人を守るために秘密裏に存在する組織、Officious Teams of America(OTA)。その中でも任務遂行率97%を誇るチームがある。その名も「WILD ANGELS」。沈着冷静なリーダー:レパード。楽天家のスナイパー:イーグル。のんびり屋のハッカー:ウルフ。美女揃いの3人の天使たち。だが、その正体は野に放たれた凶暴な天使、凄腕のプロフェッショナル・エージェントなのです。
話の内容は銃撃飛び交う本格アクションなのに、主人公3人の絶妙の掛け合いによって、深刻さは感じない。伏線の張り方も理に叶っているし、テンポもいい。背景描写も丁寧だし、武器などの専門知識も良く調べられている。でも、惜しむらくは何でもそれなりにこなせているため「これ」といった個性に欠けることだろうか? 欠点が見つからないということは、一番良く見える所が目立たなくなってしまうことでもある。でも、これは”持てる者”の悩みなのだ。それを乗り越えてこそプロというものである。今後の冬馬さんの小説家活動、及び続編に大いに期待したいと思います。
伝えるということの難しさと楽しさ
声優という「声」の表現者である冬馬さんは、普段は喋って物事を伝えています。キャラクターを演じたり、番組のナレーションだったりと、その内容は様々ですが、見たり聞いたりしている人に”伝える”ということには違いありません。巻末のあとがきにもありますが、文章だけで表現し、伝えるということの大変さと『百聞は一見に如かず』ということわざの持つ意味を痛感されたそうです。
現に私も小説を書いているので、その難しさは身に染みて解ります。頭の中の映像意識を文章だけで伝える難しさと、自分の稚拙な文章力に対するジレンマ。書き始めてしまったことへの後悔の念と、読者の反応に対する漠然たる不安。それでも小説を書きたいと思ったのは、自らが創り上げた世界とキャラクターに対する責任感があるからです。この責任感が自己の表現欲を上回った時、初めて小説は「作品」となるです。
この作品は私にとって、伝えるということの難しさと楽しさを再確認させてくれた、非常に有意義な作品となりました。