知られざる実力派
「辛島美登里」… この名を聞いてすぐに、この人が歌手だと気付く人は少ないだろう。それも無理のないことです。なにしろ、彼女の歌はヒット曲のランキングに載る事はほとんどないし、テレビへの露出も極めて少ないのですから。しかし、私にとっては「音楽=辛島美登里」と極論してしまってもいいほどに特別な存在なのです。
私が辛島美登里さんの曲に出会ったのは、偶然ラジオで流れていた「水の星座」を聴いたのが始まりでした。当時まだ高校生だった私は、その情感溢れる歌声と、意味深い歌詞に強烈な印象を抱きました。すぐさまラジオ局に問い合わせて曲名を聞き出し、CD「IN YOUR EYES」を購入。そこには私が今まで経験したことのない「大人の恋」の世界がありました。私はすっかりその独特の世界に魅せられました。これは私の音楽履歴の原体験そのものなのです。
辛島美登里works
ここで、辛島美登里さんの略歴を簡単に紹介しておきましょう。
1961年5月28日、鹿児島県に生まれる。国立奈良女子大卒業後、ソングライティングの勉強を経て、作家として活動を開始。永井真理子をはじめ、多くのシンガーに楽曲を提供。その後、才能が認められ、アーティストデビュー(FUN HOUSE)。アルバムリリースごとの全国コンサートツアーを実施。それに加え、93年からは都内を中心に年末のクリスマスコンサートを実施。好評を呼ぶ恒例の行事となり現在も続けている。1995年東芝EMI TMファクトリーへ移籍。近年は、CFイメージソングなどへの起用も増え、自作詞曲及びのびやかなヴォーカルがOL層を中心に、根強い支援を受けています。
代表曲:
笑顔を探して | (読売テレビ系アニメ「YAWARA!」主題歌) |
サイレント・イヴ | (TBS系ドラマ「クリスマス・イヴ」主題歌) |
あなたを愛している | (NHK-BEドラマ「チョコレート革命」主題歌) |
恋の鎮魂歌(レクイエム)
TVタイアップとプロデュースの支援が必要不可欠となった現代音楽業界にあって、辛島さんは作詞も作曲も自分の手で行う「女性シンガーソングライター」のスタイルを貫いています。セールスに左右されることなく、自分の音楽世界を追求する姿勢… それが辛島さんの歌の魅力なのです。
辛島さんの歌に共通するテーマは「恋と愛」です。恋をすることは、とても素敵なことだ。人を愛するということは、とても大切なことだ。だが、始まりがあれば終わりがあるように、出会いがあればまた別れもあるのです。ちょっとしたすれ違いが、相手を想うが故の束縛が、歯車を狂わせる。その想いが重いほどに、激しいほどに、喪失感も大きくなくのです。人はいかにして「恋の終わり」から立ち直るのか? それが辛島さんが語り続けているテーマなのです。
忘れることはとても簡単なことだ。だが、それは哀しいことでもある。忘れることは、激しく恋焦がれたあの時の自分の気持ちに嘘をつくことである。どんなにつらい思い出でも、自分の中で整理して、思い出の1ページにしていこう。別れの歌に記憶を乗せて、泣くだけ泣いて、明日、笑顔で笑えるように…