気分は形而上とは?
この作品は、週刊モーニング誌上で13年、575回にわたって連載されていた哲学系ギャグの4コマ漫画です。「形而上学」とは、「科学的研究や経験的観察によってとらえることのできない超自然的なことがらについて、純粋に概念的な思考を用いて、または直観的に探求しようとする哲学。たとえば神の存在や存在者の究極的な本質などについての哲学」のことです。…説明を聞いても何のことだか分からないかもしれませんが、この難解なタイトルには、作者の経歴が大きく関わっています。
作者の須賀原洋行氏は、大学で哲学を専攻していたこともあり、その経験を生かした哲学4コマを武器に公務員を辞めて漫画家へと転身しました。そして最初のヒット作が、この「気分は形而上」でした。実はこの漫画には「うああ」というサブタイトルがあります。「うああ」とは「自然現象を超えたことがらに遭遇したときに発生する感情のこと」。事実は小説よりも奇なり。漫画は事実よりも奇なり。そう、この作品は単なる哲学4コマではなく「哲学する心そのものをギャルにした4コマ漫画」なのです。
第一期「風刺哲学編」 1〜5巻
この作品は大きく分けて3つの時期に分類されます。デビュー当初は本格的な哲学風刺漫画でしたが、人気が芳しくなく連載は数回で打ち切りに…そこで、発想を転換して「身近に有るもの」をキャラクター化して哲学を抽象化してみたところ…驚異的な速さで連載は復活!その身近なキャラクターとは、なんと「ゴキブリ」!「ゴキちゃん」の誕生はその後のキャラクター路線への転換へと繋がるものとなりました。対存在として「うし」と「とり」、超越存在として「ブタのけつ」などの人気キャラも生まれ、「哲学を擬人化する」という独特のスタイルを確立していきました。 | |
第二期「実在OL編」 6〜13巻
連載も軌道に乗り、作者の身辺にも大きな変化がありました。それは実在ニョーボこと「よしえサン」との結婚です。第一期にも所々出演していたのですが、結婚を期にキャラクター「実在OL」として定着。その勢いはとどまる所を知らず、誌面を席巻。ついには主役になってしまったのです。「実在OLよしえサン」を一言で形容するならば「ホホホ」。会社では使えない天然ボケOL、料理はいつも運任せ出たとこ勝負、笑うことも白けることも許さない異次元お地蔵ギャグ、どんな名曲もお経にしてしまう絶対無音感…とにかく何をさせてもネタになってしまう。存在そのものが哲学を超越した存在なのです。形而上を初めて読む人は第二期をまっさきに読むことをオススメします。 | |
第三期「連載キャラクター編」 14〜19巻
実在OL編はよしえサンの出産&OL引退とともに終了し、再び哲学系キャラクター路線に戻り、この時期に多くの人気キャラが生まれました。第一期とはキャラクターの作り方が異なり、キャラクターの性格を固めていくうちにストーリーが出来、その中で登場したサブキャラクターをクローズアップすることで、深みを増していく手法を取っています。そして、次第にそれぞれのキャラクターの4コマは連載形式になってゆき、強烈な個性を発揮するようになりました。特に「こだわり人間:榎田君」は次回作の主役になってしまうほどの存在感を発揮していました。読めば読むほど味の出る、奥深いシリーズです。 | |
連載の終了、そして「それはエノキダ」へ
作者の須賀原氏はこれまでも定期的に自らのスタイルを変えることで、自らの創作意欲を高めてきました。作品やキャラクターは作者にとって我が子も同然ですが、だからこそ一人歩きを始めたら手を離さなくてはならない時が来る。子離れできない親も、親離できない子供も成長は無いのだから。しかし、無理につじつまを合わせてストーリーを完結させる必要はありません。終わるのは連載であって、その世界そのものではないのですから。気分は形而上の最終回はびっくりするほどあっけないものでしたが、数ヵ月後、第三期のメインキャラクターだった「榎田君」を主役にした
「それはエノキダ」が再開されました。4コマと8ページフリーの違いこそあれ、須賀原ワールドの面白さは普遍です。
どちらも絶対の自信を持ってオススメできる逸品です。
関連作品
気分は形而上 | 全19巻 | 講談社 | 週刊モーニング |
よしえサン | 全8巻 | 講談社 | 月刊アフタヌーン |
非存在病理学入門 | 全4巻 | 竹書房 | まんがくらぶ |
それはエノキダ! | 全7巻 | 講談社 | 週刊モーニング |
よしえサンち | 全4巻 | 講談社 | 週刊モーニング |
わかりあえない人々 | . | 竹書房 | まんがくらぶ |
あんたのせいだ! | . | 小学館 | ビックコミックスペリオール |
First written : 2001/02/01
Last update : 2003/11/03